No. 02
余白
Blank space
The usefulness of a water pitcher dwelt in the emptiness where water might be put, not in the form of the pitcher or the material of which it was made.
水差しが役に立つのは、水を入れられる空っぽのところであって、その形や材料にあるのではない。
Okakura Kakuzo, The Book of Tea, 1906
Episode空けておかれた場所
古い日本には、神を迎えるための場所のつくり方がありました。四本の柱を立て、そのあいだに縄を張る。内側には、何も置きません。
そこには何もないのに、人はその前で身を正します。いつか神がやって来るかもしれない、という予感だけが、空っぽの内側に満ちているからです。何もないからこそ、何かが宿りうる。
Origin白は、色ではなく感じ方
デザイナーの原研哉は、一冊まるごとを使って「白」を考え、この空けておかれた場所の話を引きました。白は、ただの色の名前ではない。何もないことの中に何かを見いだす、心のはたらきそのものだ、と。
原はそこで、二つの言葉を分けています。むだを削ぎ落として機能だけを残す「シンプル」と、はじめから何も入れずに空けておく「エンプティ」。シンプルは答えを差し出しますが、エンプティは問いを差し出す。空っぽであることが、受けとる人の思いを呼びこむのだと。
Meaning余白は、受けとる器
水差しが役に立つのは中が空っぽだから、という言葉と同じように、余白は、見る人や使う人の思いを迎え入れる器です。詰めこんだものは、それ以上なにも受けとれません。
言いたいことをすべて書いた文章には、読む人が考える場所が残らない。予定を隙間なく埋めた一日には、ふと何かを思いつく時間が残らない。余白を残すことは、手を抜くことではなく、相手のために席を空けておくことです。
Meaning余白が、自分を連れ戻す
暮らしにも、同じことが言えます。朝を、考えるための時間にしてみる。早起きは三文の徳と言いますが、本当にそうでした。分析する時間と、まとめる時間を分けるだけで、頭の中が静かになります。
詰めこまない時間の中で、忘れていた自分の感覚が、少しずつ戻ってきます。余白は、何もしない時間ではありません。本来の自分に「おかえり」と言える場所です。
So what空けておく
足りないものを見つけると、つい埋めたくなります。言葉を足し、予定を足し、飾りを足す。そうして隙間がなくなるほど、かえって何かが息苦しくなっていきます。
何かをつくるとき、暮らしを組み立てるとき、柱と縄だけを立てて、内側を空けておく。空けておいた場所には、自分では用意できなかったものが、いつか静かにやって来るのだと思います。
Sources
- 原研哉『白』中央公論新社、2008
- 岡倉覚三(天心)The Book of Tea, 1906。邦訳『茶の本』