No. 83
遠くへ、みんなで
速く行きたければ一人で、遠くへ行きたければみんなで
If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.
速く行きたければ、一人で行け。遠くへ行きたければ、みんなで行け。
アフリカのことわざとして知られる言葉
Episode先頭を、代わりばんこに
秋の空を、渡り鳥の群れがV の字を描いて渡っていきます。前の鳥が羽ばたくと、そのすぐ斜め後ろには、体を押し上げる空気の流れが生まれます。後ろの鳥はその流れに乗って、少ない力で飛ぶことができます。
いちばん苦しいのは、風をまともに受ける先頭です。ある渡り鳥の群れを追いかけた研究では、鳥たちは先頭を一羽に任せきりにせず、代わりばんこに入れ替わっていました。先頭で風を受けた時間と、後ろで休んだ時間が、ほぼ釣りあうように。一羽では渡りきれない距離を、群れはそうして越えていきます。
Originどこかの土地の、古い知恵
速く行きたければ一人で、遠くへ行きたければみんなで。この言葉は、アフリカのことわざとして世界じゅうで引かれてきました。どの土地の、誰の言葉なのかは、はっきりしていません。それでも多くの人が、これは本当だ、とうなずいてきた言葉です。
Meaning速さと遠さは、別のものさし
一人で進むのは、たしかに速い。相談もいらず、待つこともなく、決めたらすぐ動けます。短い道なら、それがいちばんです。
けれど道が長くなるほど、一人の力には限りが見えてきます。疲れたときに先頭を代わってくれる人も、道に迷ったときに別の地図を持っている人もいません。みんなで進むのは、足並みをそろえる分だけ遅くなります。そのかわり、誰か一人が倒れても、群れは前へ進みつづけます。
四百年ほど前、イギリスの詩人ジョン・ダンは、病の床で、誰かの死を知らせる鐘の音を聞きながら書きました。
No man is an island, entire of itself; every man is a piece of the continent, a part of the main.
いかなる人も、それだけで完結した島ではない。誰もが大陸のひとかけらであり、全体の一部である。— John Donne, 1624
先頭を代わりばんこに務める鳥は、親切で代わっているのではないのかもしれません。自分もまた群れの一部で、群れが欠ければ自分も欠ける。遠くへ行くという選択は、一人で決めているようでいて、いつも誰かとのつながりの中でなされています。
この言葉は、どちらがよいと言っているのではありません。いま行きたいのは、速くなのか、遠くなのか。その問いを、自分に向けさせる言葉です。
So what遠くを目指すなら、先頭を譲る
速く結果がほしいときほど、一人で抱えこみたくなります。人に説明する手間も、待つ時間も、もどかしく感じる。
けれど、行きたい場所が遠いのなら、ときどき先頭を譲り、ときどき誰かの後ろで休む。そうして入れ替わりながら進む群れのほうが、結局はいちばん遠くまで届きます。遅く見える歩みが、じつは遠くへの近道なのだと思います。
Sources
- Bernhard Voelkl ほか, “Matching times of leading and following suggest cooperation through direct reciprocity during V-formation flight in ibis,” PNAS 112(7), 2015
- Steven J. Portugal ほか, “Upwash exploitation and downwash avoidance by flap phasing in ibis formation flight,” Nature 505, 2014
- John Donne, Devotions upon Emergent Occasions, Meditation XVII, 1624
- シーナ・アイエンガー『選択の科学』櫻井祐子訳、文藝春秋、2010(ダンの言葉に出会った本)