No. 83

遠くへ、みんなで

速く行きたければ一人で、遠くへ行きたければみんなで

If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.

速く行きたければ、一人で行け。遠くへ行きたければ、みんなで行け。

アフリカのことわざとして知られる言葉

Episode先頭を、代わりばんこに

秋の空を、渡り鳥の群れがV の字を描いて渡っていきます。前の鳥が羽ばたくと、そのすぐ斜め後ろには、体を押し上げる空気の流れが生まれます。後ろの鳥はその流れに乗って、少ない力で飛ぶことができます。

いちばん苦しいのは、風をまともに受ける先頭です。ある渡り鳥の群れを追いかけた研究では、鳥たちは先頭を一羽に任せきりにせず、代わりばんこに入れ替わっていました。先頭で風を受けた時間と、後ろで休んだ時間が、ほぼ釣りあうように。一羽では渡りきれない距離を、群れはそうして越えていきます。

青い空を、十数羽の雁がV の字に並んで飛んでいる。
V の字に並んで渡るカナダガン。写真: John Benson(2007)。画像: Wikimedia Commons(CC BY 2.0)

Originどこかの土地の、古い知恵

速く行きたければ一人で、遠くへ行きたければみんなで。この言葉は、アフリカのことわざとして世界じゅうで引かれてきました。どの土地の、誰の言葉なのかは、はっきりしていません。それでも多くの人が、これは本当だ、とうなずいてきた言葉です。

Meaning速さと遠さは、別のものさし

一人で進むのは、たしかに速い。相談もいらず、待つこともなく、決めたらすぐ動けます。短い道なら、それがいちばんです。

けれど道が長くなるほど、一人の力には限りが見えてきます。疲れたときに先頭を代わってくれる人も、道に迷ったときに別の地図を持っている人もいません。みんなで進むのは、足並みをそろえる分だけ遅くなります。そのかわり、誰か一人が倒れても、群れは前へ進みつづけます。

四百年ほど前、イギリスの詩人ジョン・ダンは、病の床で、誰かの死を知らせる鐘の音を聞きながら書きました。

No man is an island, entire of itself; every man is a piece of the continent, a part of the main.

いかなる人も、それだけで完結した島ではない。誰もが大陸のひとかけらであり、全体の一部である。— John Donne, 1624

先頭を代わりばんこに務める鳥は、親切で代わっているのではないのかもしれません。自分もまた群れの一部で、群れが欠ければ自分も欠ける。遠くへ行くという選択は、一人で決めているようでいて、いつも誰かとのつながりの中でなされています。

この言葉は、どちらがよいと言っているのではありません。いま行きたいのは、速くなのか、遠くなのか。その問いを、自分に向けさせる言葉です。

So what遠くを目指すなら、先頭を譲る

速く結果がほしいときほど、一人で抱えこみたくなります。人に説明する手間も、待つ時間も、もどかしく感じる。

けれど、行きたい場所が遠いのなら、ときどき先頭を譲り、ときどき誰かの後ろで休む。そうして入れ替わりながら進む群れのほうが、結局はいちばん遠くまで届きます。遅く見える歩みが、じつは遠くへの近道なのだと思います。

Sources

  1. Bernhard Voelkl ほか, “Matching times of leading and following suggest cooperation through direct reciprocity during V-formation flight in ibis,” PNAS 112(7), 2015
  2. Steven J. Portugal ほか, “Upwash exploitation and downwash avoidance by flap phasing in ibis formation flight,” Nature 505, 2014
  3. John Donne, Devotions upon Emergent Occasions, Meditation XVII, 1624
  4. シーナ・アイエンガー『選択の科学』櫻井祐子訳、文藝春秋、2010(ダンの言葉に出会った本)