No. 109

森の生活

自分の太鼓の音に合わせて歩く

I went to the woods because I wished to live deliberately, to front only the essential facts of life, and see if I could not learn what it had to teach.

私が森へ行ったのは、意図をもって生きたかったからだ。人生の本質的な事実だけに向きあい、人生が教えるべきことを、自分が学べないかどうか、確かめたかったからだ。

Henry David Thoreau, Walden, 1854

Episode湖のほとりの小屋

二十七歳のヘンリー・デイヴィッド・ソローは、ある夏の日、生まれた町のはずれにある湖のほとりで、自分の手で小さな小屋を建てはじめました。斧を借り、木を切り、古い小屋の板を買いとって、屋根と壁を組む。釘や窓ガラスにいくら払ったかを、一つずつ書きとめながら。

彼はそこで、二年と二か月を一人で暮らしました。豆の畑を耕し、湖で水を浴び、森を歩き、本を読み、書く。訪ねてくる人と話し、ときには町へ出て、また小屋へ戻る。世の中から逃げたのではありません。暮らしにほんとうに要るものは何かを、自分の手で確かめるための、実験でした。

古い肖像写真。ひげをたくわえた男性が、まっすぐこちらを見ている。
ヘンリー・デイヴィッド・ソロー(1856)。写真: Benjamin D. Maxham。画像: Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

Originものの値段は、命の量

森での暮らしを書いた本の中で、ソローは一つの物差しを示しました。ものの値段とは、それを手に入れるために差し出さなければならない、命の量のことだ、と。大きな家を手に入れれば、その家のために、何年も働きつづけなければならない。人は持ちものを持っているつもりで、じつは持ちものに持たれている。

だから彼は、くり返し書きます。簡素に、簡素に。暮らしを小さくすれば、そのぶん、自分の時間が戻ってくる。その時間で、自然を見つめ、考え、ほんとうに生きたいように生きることができる。

Meaning別の太鼓の音

本の終わり近くで、ソローはこう書いています。もし誰かが、仲間と歩調を合わせていないとしたら、それはきっと、その人が別の太鼓の音を聞いているからだ。その人には、聞こえている音楽に合わせて歩かせてあげればいい。どれほどゆっくりでも、どれほど遠くても。

周りと同じ速さで、同じ方向へ歩くのは、安心なことです。けれど、自分にだけ聞こえている音があるなら、それに合わせて歩くことも、一つの生き方です。湖のほとりの小屋は、ソローにとって、その音を聞きとるための静かな場所だったのでしょう。

So what意図をもって、生きる

忙しく過ごしていると、私たちはいつのまにか、誰かが決めた速さで、誰かが決めた方へ歩いています。何のために働き、何のために持っているのかを、考える暇もないまま。

ときどき、自分の小屋を建ててみる。ほんとうに要るものだけを置き、自分の太鼓の音に耳を澄ませる場所を。そこで確かめたことを手に、また町へ戻ればいい。意図をもって生きるとは、世の中から離れることではなく、自分の歩調で、世の中を歩くことなのだと思います。

Sources

  1. Henry David Thoreau, Walden; or, Life in the Woods, 1854。邦訳『森の生活』