No. 58

機能から意味へ

人は物ではなく、その意味に動かされる

Humans do not see and act on the physical qualities of things, but on what they mean to them.

人は、物の物理的な性質を見て動くのではない。それが自分にとって何を意味するかを見て、動いている。

クラウス・クリッペンドルフ『意味論的転回』(2006)

Origin形は、機能に従う

二十世紀のデザインは、長いあいだ「形は機能に従う」という言葉に導かれてきました。役に立つ形を突きつめれば、美しさはあとからついてくる。設計する人が機能を決め、使う人はそれに従う。物は、つくり手の頭の中で完成していました。

デザインの研究者クラウス・クリッペンドルフは、この前提をひっくり返しました。人が反応しているのは、物の形や素材そのものではなく、それが自分にとって何を意味するかだ、と。哲学で、ものごとを考える土台が言葉の働きへと移ったことを「言語論的転回」と呼ぶように、彼はデザインの土台が意味へと移ることを、意味論的転回と名づけました。デザインを機能の学から、意味の学へ移しかえる宣言です。

Meaning理解を、理解する

意味は、物の中にはありません。見る人と使う場面のあいだに、そのつど生まれます。同じ椅子でも、ある人には休む場所、ある人には踏み台、ある人には思い出の品です。だから作り手は、自分がその物をどう理解しているかだけでは足りません。ほかの人がそれをどう理解しているかを、理解しなければならない。

クリッペンドルフはこれを、二次の理解と呼びました。一次の理解は、自分が物をどう見るか。二次の理解は、他人が物をどう見ているかを見ること。そこでは「ユーザー」という一つの像は成り立ちません。使う人、買う人、直す人、売る人、反対する人。それぞれの理解を持つステークホルダーの網の目の中で、物は意味を与えられ、先へ進めてもらえたり、止められたりします。

Meaning人工物の軌跡

クリッペンドルフは、デザインが相手にしてきたものの移り変わりを、一本の軌跡として描きました。はじめは、使えるかどうかが問われる製品。次に、市場で選ばれる財やサービスやブランド。人と機械が通じあうためのインターフェース。多くの人が同時に関わる仕組み。人々が力を合わせるプロジェクト。そして最後に、社会の中での語り方、ディスコースそのもの。

人工物の軌跡 上から下へ六つの段。製品、財・サービス・アイデンティティ、インターフェース、マルチユーザー・システム、プロジェクト、ディスコース。下へ行くほど、デザインの対象は形のある物から、人と人のあいだの意味へ移っていく。 製品 使えるか、働くか 財・サービス・アイデンティティ 市場で選ばれるか インターフェース 人と機械が通じあえるか マルチユーザー・システム 多くの人のあいだで回るか プロジェクト 人々が力を合わせられるか ディスコース 語り方そのものを変えられるか
デザインの対象は、形のある物から、人と人のあいだの意味へと広がってきた。クラウス・クリッペンドルフ『意味論的転回』の「人工物の軌跡」をもとに描き直したもの

軌跡は、前の段を捨てて進むのではありません。製品をつくる仕事は今もあります。ただ、下の段へ行くほど、デザインする対象は形のある物から離れ、人と人のあいだで共有される意味そのものになっていきます。

So what相手の目で、もう一度見る

何かをつくるとき、作り手はつい、自分の目に映る正しさで判断します。機能がそろっている、筋が通っている、美しい。けれど、それを受けとる人は、作り手とは違う物語の中でそれを見ています。

だから、つくったものを、相手の目でもう一度見る。この人はこれを何だと思うだろう。どんな言葉で誰かに話すだろう。物を磨くことと、物が誰かの中でどんな意味になるかを想像することは、同じ一つの仕事です。デザインとは、物をつくることであると同時に、理解の網の目に、新しい意味を差し出すことなのだと思います。

Sources

  1. Klaus Krippendorff, The Semantic Turn: A New Foundation for Design, CRC Press, 2006。邦訳 クラウス・クリッペンドルフ『意味論的転回 デザインの新しい基礎理論』エスアイビー・アクセス、2009