No. 87

スクラム

バトンを渡さず、ボールを回して進む

As in rugby, the ball gets passed within the team as it moves as a unit up the field.

ラグビーのように、ボールは組の中で回され、組はひとかたまりになってフィールドを進んでいく。

Hirotaka Takeuchi, Ikujiro Nonaka, “The New New Product Development Game,” 1986(冒頭の要約)

Episode平均二十七歳の組

ある自動車会社で、若い技術者たちが集められました。組の平均は二十七歳。上からの指示は、若い人たちが乗りたくなるような車を、というものでした。

はじめ、組は売れている車を小さくした案に傾きました。それがいちばん自然な答えに見えたからです。けれど議論を重ねるうちに、車は長く低くあるべきだという当たり前そのものを疑いはじめます。機械は最小に、人は最大に(machine minimum, man maximum)。そうして生まれたのが、背の高い、短い車でした。

途中で、考えが行き詰まったこともありました。会社は組の何人かをヨーロッパへ三週間送り出し、ただ「向こうで何が起きているか見てこい」とだけ言いました。彼らはそこで、何十年も前にイギリスで生まれた小さな車に出会い、それが車の考え方を大きく変えたといいます。組の一人は、のちにこう振り返っています。

It’s incredible how the company called in young engineers like ourselves to design a car with a totally new concept and gave us the freedom to do it our way.

私たちのような若い技術者を呼んで、まったく新しい考え方の車をつくらせ、自分たちのやり方でやる自由までくれた。信じられないことです。

— Takeuchi, Nonaka, “The New New Product Development Game”

Originリレーから、ラグビーへ

経営学者の竹内弘高と野中郁次郎は、この車を含む六つの製品がどのように生まれたのかを、経営者から若い技術者まで話を聞いて調べました。そして一つの論文で、製品づくりを二つの競技にたとえます。

一つは、リレー。企画の人が走り終えると、設計の人にバトンを渡し、設計が終われば試作へ、試作が終われば製造へ。前の区間の条件がすべてそろうまで、次は動きません。もう一つは、ラグビー。いろいろな役割の人が一つの組になって、はじめから終わりまで一緒に、ボールを前へ後ろへと回しながらグラウンドを進んでいきます。

工程の進め方の三つの型 上の段は、六つの四角が間をあけて一列に並ぶ。中の段は、六つの弧が隣どうし少しずつ重なる。下の段は、六つの弧が長く尾を引いて、いくつもの工程にまたがって重なる。 A 工程を一つずつ、順に渡すB 隣りあう工程を、少し重ねるC いくつもの工程を、大きく重ねる
リレーのように順に渡すか、ラグビーのように重ねて進むか。竹内弘高・野中郁次郎の論文の図(Exhibit I)をもとに描き直したもの

論文はこの重なりを三つの型で描きました。順に渡す A。隣りあう工程の境目だけを重ねる B。これは、刺身の切り身が皿の上で少しずつ重なって並ぶ姿から「刺身」と呼ばれ、ある複写機の開発では、これで開発の期間を三十八か月から二十九か月に縮めています。そして、いくつもの工程を大きく重ねる C。若い技術者たちの車は、この C の組でした。

のちに、この論文を読んだソフトウェアの作り手ジェフ・サザーランドは、ラグビーの言葉をとって、自分たちの働き方を「スクラム」と名づけ、ケン・シュエイバーとともに人前で示しました。その考え方は、いまではソフトウェアの外へも広がっています。

Meaning重ねると揺れる。揺れるから、学ぶ

工程を重ねると、境目はあいまいになります。企画が固まらないうちに設計が動き出し、設計の途中で、つくる人の声が戻ってくる。順番に渡すよりずっと落ち着かないやり方です。論文はこの揺れを「雑音」と呼び、重ねて進む組は、雑音を吸いこみながら止まらずに進める、と書きました。順に渡すやり方では、一つの区間の詰まりが、全体を止めてしまうからです。

上に立つ人は、細かな手順ではなく、大きく、少し無理のある目標だけを示して、あとは組に任せます。ある開発の責任者は、その緊張をこう言い表しました。

It’s like putting the team members on the second floor, removing the ladder, and telling them to jump or else.

組の者たちを二階に上げて、はしごを外し、さあ跳べ、と言うようなものです。

— Takeuchi, Nonaka, “The New New Product Development Game”

はしごのない二階では、自分の区間の外のことを知らずにはいられません。設計の人がつくる現場の事情を知り、つくる人が企画の意図を知る。その揺れが、一人ひとりの専門を越えた知恵を、組の中に育てていきました。

So whatバトンを渡さず、ボールを回す

前の人が終わるのを待ってから走り出すと、一つひとつの区間はきれいに見えます。けれど、遠くまで速く進むのは、ボールを抱えたまま、みんなで一緒に動く組のほうです。自分の区間が始まる前から、隣の人と並んで走りはじめる。

Sources

  1. Hirotaka Takeuchi, Ikujiro Nonaka, “The New New Product Development Game,” Harvard Business Review, January–February 1986, pp. 137–146(Exhibit I、“Built-in instability”“Self-organizing project teams”“Overlapping development phases”“Multilearning” の節)
  2. Darrell K. Rigby, Jeff Sutherland, Hirotaka Takeuchi, “The Secret History of Agile Innovation,” HBR.org, April 19, 2016 hbr.org
  3. Ken Schwaber, Jeff Sutherland, The Scrum Guide, 2020 scrumguides.org