No. 86

プルラリティ

違いを保ったまま、ともに進む

When we see “internet of things,” let’s make it an internet of beings. (中略) When we hear “the singularity is near,” let us remember: the plurality is here.

「モノのインターネット」と聞いたら、それを「いのちのインターネット」にしよう。(中略)「シンギュラリティは近い」と聞いたら、思い出そう。「プルラリティは、ここにある」と。

オードリー・タン、デジタル担当の大臣としての職務記述、2016

Episodeうわさには、ユーモアで

感染症が広がりはじめたころ、ある島の国で、トイレットペーパーがなくなるといううわさが流れました。人々は店へ走り、棚はたちまち空になりかけます。そのとき政府が出したのは、怖い警告ではなく、一枚のおかしな画像でした。首相がお尻を振りながら、私たちのお尻は一つしかない、と語りかける。紙は十分にあることを、笑いとともに伝えたのです。

うわさに理屈で反論すると、かえって広がることがあります。けれど笑いは、うわさより速く、軽やかに広がる。その国のデジタルを担っていたオードリー・タンは、これを「ユーモアでうわさに勝つ」と呼びました。正しい情報を、速く、公平に、そして楽しく届けること。それが、人々が不安に呑まれないための仕組みだと考えたのです。

鏡の枠ごしに、眼鏡をかけた人物が少しうつむいて立っている。鏡に映りこんで、同じ人の姿がいくつも重なって見える。
鏡に映る、いくつものオードリー・タン(2016)。画像: Wikimedia Commons(CC0)

Originプルラリティ、多くが共にある

オードリー・タンは、若くしてプログラムを書きはじめ、独学で学び、やがて国のデジタルを担う大臣になりました。大臣になったとき、彼女は自分の仕事を、一篇の詩のような言葉で書き表しています。モノのインターネットを、いのちのインターネットに。機械が学ぶことを、人が共に学ぶことに。そして、技術が人を超えていく一点、シンギュラリティではなく、多くの違う人々が共にある状態、プルラリティを。

のちに彼女は、経済学者のグレン・ワイルとともに、この考えを一冊の本にまとめます。技術は、人々を一つの答えにまとめるためのものではなく、違う意見を持つ人どうしが、違いを保ったまま協力するためのものだ、と。

Meaning白か黒かではなく、あいだを見る

ふつうの話しあいでは、賛成か反対か、白か黒かを問われます。すると、声の大きな意見どうしがぶつかり、真ん中にいたはずの多くの人の考えは見えなくなってしまう。タンが政府の話しあいに取りいれた仕組みは、その逆を行くものでした。

参加する人は、短い一文で自分の意見を書きこみ、ほかの人の一文に、賛成、反対、わからない、のどれかで答えていきます。反論を書きこむ欄は、あえてありません。言い争いが起きないように、ただ一文ずつに意思を示していくのです。すると、答え方の似ている人どうしが、画面の上で自然にいくつかのかたまりになり、意見の地図が描かれていきます。

大事なのは、その地図の中から、かたまりの違う人たちが、そろってうなずいている一文が浮かびあがってくることです。対立しているように見えた人々のあいだにも、じつは共通の願いがある。たとえば、新しい配車サービスをどう扱うかで社会が割れたとき、この仕組みで見つかったのは、乗る人の安全は守りたい、運転する人の暮らしも守りたい、という、立場を越えて多くの人が賛成する一文でした。それを足場に、話しあいは前へ進んだといいます。

みんなが同じ意見になる必要はありません。違いは違いのまま残し、それでも一緒に進める部分を見つける。白と黒のあいだの広い灰色の地帯を見えるようにすることが、多くの違う人々が共に生きるための、現実的な道だとタンは考えました。

So what一つにまとめず、重ねる

意見が割れると、私たちはつい、どちらが正しいかを決めようとします。勝ち負けをつけ、一つの答えにまとめようとする。

けれど、その前に、違う立場の人どうしが、どこで同じようにうなずいているのかを探してみる。うわさや対立が広がりそうなときこそ、怖がらせるより、笑いと誠実さで応じてみる。一つにまとめるのではなく、違いを重ねていく。そのほうが、ずっと遠くまで、一緒に進めるのだと思います。

Sources

  1. Audrey Tang, 職務記述(Job Description of Digital Minister), 2016
  2. Glen Weyl, Audrey Tang, Plurality: The Future of Collaborative Technology and Democracy, 2024。邦訳『PLURALITY 対立を創造に変える、協働テクノロジーと民主主義の未来』
  3. 意見の地図を描く仕組み Pol.is と、それを使った台湾の市民参加の場 vTaiwan