No. 65

パッチワーク

図案を持たずに、一片ずつ継いでいく

A more significant distinction would be between embroidery, with its central theme or motif, and patchwork, with its piece-by-piece construction, its infinite, successive additions of fabric.

もっと大事な区別は、刺繍とパッチワークのあいだにある。刺繍には、中心となるテーマや模様がある。パッチワークは、一片ずつ組み立てられ、布が果てしなく継ぎ足されていく。

Gilles Deleuze, Félix Guattari, A Thousand Plateaus, 1980

Episode海を渡ったキルト

十七世紀、ヨーロッパから新しい大陸へ渡った人たちは、故郷のキルトを携えていきました。一枚の布の上に、針目で模様を描きこんだ無地のキルトです。中心の模様から外へ、均整のとれた図柄が広がっていく。たいへん美しいものでした。

けれど新しい土地では、布が足りません。その世紀の終わりにかけて、人びとは別の縫い方を育てていきます。余った布、着古した服から取った切れ端、端切れの袋の底に残ったもの。手もとにある小さな布を、一枚ずつ継ぎ合わせていく。パッチワークのキルトです。

パッチワークは、ひとりでは仕上がりません。女性たちは集まって、同じ一枚を囲んで縫いました。持ち寄った端切れが、誰の設計図にもなかった一枚になっていきます。

Origin刺繍の空間と、パッチワークの空間

哲学者のジル・ドゥルーズと、精神分析家のフェリックス・ガタリは、この二つの縫い方を、空間の二つのあり方のたとえにしました。

刺繍には、中心があります。決まった模様があり、すべての針目はその模様に仕えます。どれほど複雑でも、全体は最初の図案から割り出されている。二人はこれを、線を引いて区切られた空間と呼びました。

パッチワークには、中心がありません。一片を継ぎ、また一片を継ぐ。大きさも形も色も違う布を合わせる「クレイジー・パッチワーク」になると、決まった図案はもう見えません。それでも、同じ大きさの一片のくり返しや、布の手ざわりの違いが、刺繍の整った調和とは別のリズムを生みます。並べた布の、形の定まらない集まりで、つなぎ方は限りなくある。二人はこれを、なめらかな空間と呼びました。

刺繍とパッチワーク 左は、正方形の真ん中に花のような模様があり、そこから外へ線が放射状に広がる刺繍。右は、大きさも形も違う四角い布がすき間なく継ぎ合わされたパッチワーク。中心はない。 刺繍 パッチワーク 中心から割り出す 一片ずつ継ぎ足す
中心の図案から全体を決める刺繍と、一片ずつ継いで全体が浮かぶパッチワーク。ドゥルーズとガタリの『千のプラトー』の区別をもとに描いたもの

Meaning図案のない全体

刺繍を縫う人は、はじめに全体を知っています。図案があり、そこへ向かって針を進める。うまくいったかどうかは、図案にどれだけ近いかで決まります。

パッチワークを縫う人は、はじめに全体を知りません。知っているのは、手もとにある布と、いま継いでいる一片だけです。全体は、継ぎ足していくうちに、あとから浮かび上がってきます。布が足りないという制約が、図案に縛られない自由をもたらした、とも言えます。足りないからこそ、ありあわせを組み合わせるしかなかった。そして、そこから新しい美しさが生まれました。

この二つは、どちらが正しいという話ではありません。二人も、二つの空間は混じりあって存在すると書いています。刺繍のような端正さが要る場面もあります。ただ、全体の図案が描けないときや、手もとのものが限られているときには、もう一つの縫い方があることを思い出せます。

So what一片ずつ、継いでいく

仕事も、考えも、生き方も、最初に全体の図案を描けるとは限りません。描けないことを、遅れや欠けと考えなくてもいい。いま手にある一片を、隣の一片とどう合わせるかを考えます。

形も色も違う経験を、一枚ずつ継いでいく。持ち寄ってくれる人がいれば、一緒に縫う。振り返ったとき、誰の図案にもなかった一枚が、そこにできています。

Sources

  1. Gilles Deleuze, Félix Guattari, Mille plateaux, Éditions de Minuit, 1980. 英訳 A Thousand Plateaus, trans. Brian Massumi, University of Minnesota Press, 1987, ch.14 “1440: The Smooth and the Striated”(刺繍とパッチワーク、クレイジー・パッチワーク、移民のキルト、キルトを縫う集まり)
  2. ジル・ドゥルーズ、フェリックス・ガタリ『千のプラトー』宇野邦一ほか訳、河出書房新社