No. 28

ノイズ

判断のあるところには、ばらつきがある

Wherever there is judgment, there is noise, and more of it than you think.

判断のあるところには、ノイズがある。しかも、思っているよりずっと多く。

ダニエル・カーネマン、オリヴィエ・シボニー、キャス・サンスティーン『NOISE』(2021)

Episode同じ書類、違う値段

ある保険会社で、こんな試みが行われました。同じ案件の書類を、何人もの引き受けの担当者に別々に渡して、保険料を見積もってもらう。経営陣は、担当者どうしの差はせいぜい一割ほどだろうと考えていました。同じ会社で、同じ研修を受け、同じ基準で働いている人たちです。

ところが、ふたを開けてみると、二人の見積もりの差は、真ん中あたりでも五割を超えていました。ある人が百と付けた案件に、別の人は百五十を付ける。どちらも、自分の判断はまっとうだと思っています。会社の誰も、そんなばらつきがあることに気づいていませんでした。

同じことは、裁判の量刑にも、医師の診断にも、採用の面接にも起きていました。同じ人でさえ、朝と夕方、晴れの日と暑い日とで、違う判断をくだしていたのです。

Meaning偏りと、ばらつき

判断の誤りには、二つの種類があります。一つは偏り。みんなが同じ方向にずれることです。もう一つがノイズ。本来なら同じになるはずの判断が、人や時によって、ばらばらに散ることです。

四つのチームの的 四つの的に、それぞれ五発ずつ。正確なチームは中心に集まる。偏ったチームは中心から外れた一か所に集まる。ばらついたチームは中心のまわりに散らばる。偏ってばらついたチームは、外れた場所に散らばる。 正確 偏り ばらつき 偏りとばらつき
四つのチームが、それぞれ五発ずつ的を撃った跡。偏りは、外れた一か所にまとまる。ノイズは、まわりに散らばる。カーネマンらの『NOISE』の図をもとに描き直したもの

偏りは、目につきます。一か所にまとまってずれているので、物語にしやすいのです。ノイズは、目につきません。一つひとつの判断を見ているかぎり、どれももっともらしく見えるからです。散らばりは、同じものを何人かで、あるいは何度か判断して、並べてみたときにはじめて見えてきます。

そしてカーネマンらは、全体の誤りを減らすうえで、ノイズを減らすことは偏りを減らすことと同じだけ効く、と言います。原因が分からなくても、散らばりは減らせる。それがノイズの扱い方の、いちばんの手がかりです。

So what判断の衛生

自分の判断は、自分の中では一貫して見えます。けれど隣の人と並べてみると、驚くほど違っていることがある。昨日の自分と並べてみても、きっと違っています。

だから、判断にも手洗いのような習慣を持ちたいところです。何人かで、相談する前にまず一人ずつ判断して、あとで持ち寄る。大きな判断は、いくつかの小さな問いに分けて、一つずつ確かめる。直感は捨てずに、最後まで寝かせておく。どの病が防げたのかは分からなくても、手を洗えば病は減ります。ノイズも、見えないまま、確かに減らせるのだと思います。

Sources

  1. Daniel Kahneman, Olivier Sibony, Cass R. Sunstein, Noise: A Flaw in Human Judgment, Little, Brown Spark, 2021。邦訳 ダニエル・カーネマン、オリヴィエ・シボニー、キャス・R・サンスティーン『NOISE 組織はなぜ判断を誤るのか?』村井章子訳、早川書房