No. 78
マルチ・ポテンシャライト
天職が一つではない人の強さ
Episode大きくなったら、何になりたい?
子どものころ、何度も聞かれた問いがあります。大きくなったら、何になりたいの。答えは一つであることが、当たり前のように求められていました。
けれど、そう聞かれるたびに困ってしまう子もいます。音楽も好き、絵も好き、ものをつくるのも、人の話を聞くのも好き。一つを選べと言われると、ほかのすべてを手放さなければならない気がする。大人になってからも、新しいことに夢中になっては、しばらくして次へ移ってしまう自分に、どこか後ろめたさを感じつづける。
Origin天職が一つではない人
エミリー・ワプニックは、自分自身がそうした一人でした。音楽、映画、法律と、関心が移るたびに、自分はどこかおかしいのではないかと悩んだと言います。やがて彼女は、同じように悩む人がたくさんいることに気づき、そうした人たちを「マルチ・ポテンシャライト」と名づけました。たくさんの関心と、たくさんの創造的な道を持つ人、という意味です。
彼女は、一つのことを深く極めるスペシャリストを否定しません。ただ、それとは別の生き方がある、と言いました。一つに絞れないことは欠けているのではなく、別の形の強さなのだと。
Meaningあいだに立つ強さ
ワプニックは、マルチ・ポテンシャライトの強さを三つ挙げています。一つは、離れた分野を組み合わせて、新しいものを生むこと。いくつもの領域の交わるところにこそ、新しい考えは生まれます。二つめは、学ぶのが速いこと。初心者になることに慣れているので、新しいことに飛びこむのを恐れない。三つめは、変化に合わせて形を変えられること。状況が変われば、別の自分に持ち替えればいいのです。
移り気に見えた寄り道は、こうして一つの人の中でつながっていきます。いろいろなことをやってきた人は、話の通じにくい専門家どうしのあいだに立ち、片方の言葉を、もう片方に分かる言葉で言い直すことができる。
境界線からハミ出ればハミ出る程よい。
伊藤穰一
分野と分野の境目は、どちらの側からも手が届きにくい場所です。だからこそ、そこにはまだ誰も手をつけていない問いが残っている。一つの枠の内側にきちんと収まらないことは、欠点ではなく、新しいものが生まれる場所に立っているということなのです。
So what一つに絞らなくていい
何になりたいかと聞かれて、一つに決められなくてもかまいません。関心が移っていくのは、飽きっぽいからではなく、まだ見ていない交わりを探しているからかもしれません。
好きなことを、いくつでも抱えたまま歩いていく。ときどき振り返って、それらがどこでつながっているかを確かめる。一つの道を極めることと同じくらい、いくつもの道のあいだを歩くことにも、その人にしかできない仕事があるのだと思います。
Sources
- Emilie Wapnick, “Why some of us don't have one true calling,” TEDxBend, 2015
- Emilie Wapnick, How to Be Everything, HarperOne, 2017。邦訳『マルチ・ポテンシャライト ― 好きなことを次々と仕事にして、一生食っていく方法』PHP研究所、2018