No. 68

マフィンを焼く前に

あとから足せないものは、最初の生地に

You cannot put the blueberries into the muffin after it is cooked.

焼き上がったマフィンに、あとからブルーベリーを入れることはできない。

英語のたとえ

Episode混ぜ忘れたブルーベリー

オーブンからマフィンを取り出して、ふくらんだ焼き色に満足したところで、台所の隅に、洗っておいたブルーベリーの器が残っているのに気づく。生地に混ぜるのを、すっかり忘れていたのです。

焼き上がったマフィンに、あとから押しこんでみても、実は表面にのっかるだけです。生地の中で熱にはじけ、まわりに甘酸っぱい色をにじませた、あのブルーベリーマフィンにはなりません。ほんとうに入れたかったなら、焼く前の、やわらかい生地のうちに混ぜておくしかなかったのです。

Originはじめから、すべての人のために

建築家のロナルド・メイスは、自らも車いすで暮らしながら、「ユニバーサルデザイン」という考え方を唱えました。障害のある人のために、できあがった建物にあとから手すりやスロープを付け足すのではない。はじめから、できるだけ多くの人が使える形に設計しておく、という考え方です。

あとから付け足したスロープは、たいてい建物の裏口にあり、遠回りで、どこか取ってつけたように見えます。はじめから設計に溶けこんだ入り口は、誰にとっても同じ、正面の入り口になります。

Meaning歩道の切れ目

町の交差点の角では、歩道の縁石が、車道に向かってなだらかに低くなっています。いまでは当たり前のこの切れ目は、もともと車いすで暮らす人たちが声を上げ、町に求めてつくらせたものでした。段差が一つあるだけで、その先の町へは行けなかったからです。

ところが切れ目ができてみると、それを使ったのは車いすの人だけではありませんでした。ベビーカーを押す親、スーツケースを引く旅行者、台車で荷物を運ぶ人、自転車を押す子ども。一部の人のためにつくったはずのものが、気づけば町じゅうの人の歩きやすさになっていたのです。

Meaningあとから足せないもの

見えにくい人にも読める画面、耳の聞こえにくい人にも伝わる案内、壊れにくく、盗まれにくい仕組み。こうした性質は、できあがったものの表面に貼りつける飾りではありません。骨組みや、材料の選び方や、ものごとの順番そのものに、しみこんでいるものです。

だから、完成したあとで加えようとすると、生地を割って、焼き直すような手間がかかります。費用はふくらみ、継ぎはぎの跡が残り、それでも最初から入れておいたものにはかないません。マフィンのブルーベリーは、焼く前の、やわらかい生地のうちに混ぜておくしかないのです。

So what焼く前に、混ぜておく

急いでいるときほど、まず形にして、細かいことはあとで直そう、と考えたくなります。けれど、あとで直せることと、あとからでは入らないことがあります。

つくりはじめる前に、一度だけ立ち止まって考えてみる。このあと誰が使うのか。いちばん使いにくい人は誰か。その人のための一粒を、最初の生地に混ぜておく。そうして焼き上げたものは、その人だけでなく、結局は誰にとっても、使いやすいものになるのだと思います。

Sources

  1. Ronald L. Mace, “Universal Design: Barrier Free Environments for Everyone,” Designers West, 1985
  2. Angela Glover Blackwell, “The Curb-Cut Effect,” Stanford Social Innovation Review, 2017