No. 43

システムと踊る

水面の下に、小さな支点がある

We can’t control systems or figure them out. But we can dance with them!

システムを思いどおりに操ることも、すっかり解き明かすこともできない。けれど、一緒に踊ることならできる。

Donella H. Meadows, “Dancing with Systems,” 2001

Episodeホワイトボードの前に立った人

世界の貿易の新しい仕組みをめぐる、ある会議でのことです。専門家たちが、どこに手を打てば流れを変えられるのかを議論していました。聞いていたドネラ・メドウズは、どこか違和感を覚えて立ち上がり、ホワイトボードに、システムに働きかけられる場所を、思いつくままに書き並べはじめました。

数字を少し変えること。流れの速さを変えること。情報の届き方を変えること。ルールを変えること。目的そのものを変えること。そして、いちばん下に、その仕組みを生みだしている人々のものの見方を変えること。のちに彼女は、このリストを磨き直して一本の文章にまとめ、それは「レバレッジ・ポイント」として世界中で読まれることになります。

Origin小さな力で、大きく動く場所

メドウズは、世界の資源と人口の行く末を描いた『成長の限界』の書き手の一人として知られる、システムの研究者です。彼女は、複雑な仕組みの中には、わずかな力で全体を大きく動かせる場所がある、と考えました。てこの支点のような場所です。

けれど、そうした場所は、たいてい直感とは逆のところにあります。人々は支点を見つけても、反対の向きに力をかけてしまうことが多い。そしていちばん効くのは、数字やルールをいじることよりも、人々がものごとをどう見ているかという、目に見えない前提に触れることでした。

Meaning水面の下の、支点

システム思考では、物事の見え方を氷山にたとえることがあります。水の上に見えるのは、ある日起きた出来事だけ。その下には、同じことがくり返される流れがあり、さらに下に、流れを生みだす仕組みがあり、いちばん底に、人々が当たり前だと思いこんでいる前提が沈んでいます。

氷山の四つの層 横に引かれた水面の線の上に、氷山の小さな先端だけが出ている。先端の層は「出来事」。水面の下には大きな氷のかたまりがあり、上から「流れ」「仕組み」「思いこみ」と三つの層に分かれている。下に行くほど、見えにくく、変える力が大きい。 出来事 流れ 仕組み 思いこみ 見える 変える力が大きい
水の上に見えるのは出来事だけ。下へ行くほど見えにくく、動かす力は大きい

メドウズの支点の多くは、この水面の下にあります。出来事に一つずつ対処しても、下の仕組みや思いこみが変わらなければ、同じ出来事はまたくり返される。下の層ほど見えにくいけれど、そこに触れたときにこそ、物事は大きく動きます。

Meaning見えている課題は、比べられる

何かをつくる仕事でも、同じことが言えます。誰の目にも見えている課題、たとえば「もっと速く」「もっと安く」といった課題には、誰もが同じように答えようとします。そうなると勝負は、速さや安さの数字の比べ合い、つまり仕様の競争になっていきます。

けれど、使う人自身もまだ言葉にできていない、水面の下の困りごとがあります。なぜそれを速くしたいのか。その手間の向こうで、本当は何を避けたいのか。潜んでいる課題に気づけた人だけが、比べ合いの外に出て、まだ誰も答えていない問いに答えることができるのです。

少し引いた目で眺めると、それは、同じ場所にみんなで群がって争っている姿にも見えます。同じ課題に、同じやり方で、同じものをつくる。選べるものが増えるのはよいことです。けれど、それ以外にできることは、本当にないのでしょうか。全体を一つの仕組みとして見たとき、どこに力をかければいちばん大きく動くのか。問うべきは、どう勝つかより先に、そのことなのかもしれません。

Meaning操れなくても、ともに動ける

晩年のメドウズは、それでも、システムを思いどおりに操ることはできない、と書きました。どれだけ調べても、すべてを予測することはできない。けれど、手も足も出ないわけではない。音楽に耳を澄ませて踊るように、システムのリズムに耳を澄ませ、一緒に動くことはできる、と。

動かす前に、まず見る。仕組みがどう振る舞ってきたのかを、時間をかけて観察する。自分の思いこみを疑い、まちがいを認めて学ぶ。数えられるものだけでなく、数えにくいけれど大切なものにも目を向ける。彼女が残した心得は、どれも、相手を支配するのではなく、相手とともに動くための作法でした。

So what押すより、合わせる

うまくいかないとき、私たちはつい、もっと強く押そうとします。数字を上げ、ルールを足し、力でねじ伏せようとする。けれど、仕組みはたいてい、押した分だけ押し返してきます。

そんなときは、一歩下がって、全体のリズムに耳を澄ませてみる。水面の下をのぞき、どこに小さな支点があるのか、自分はどんな前提で見ているのかを確かめる。そして、操ろうとする手をゆるめ、相手のリズムに合わせて、自分も一歩を踏み出してみる。やり方にこだわる必要はありません。自分が正しいと思える大きな目的を見つけ、それを小さく実行に移すことを、くり返し練習する。そのとき、仕組みは思いがけない場所から、静かに動きはじめるのだと思います。

Sources

  1. Donella H. Meadows, “Leverage Points: Places to Intervene in a System,” The Sustainability Institute, 1999
  2. Donella H. Meadows, “Dancing with Systems,” Whole Earth, 2001
  3. Donella H. Meadows, Thinking in Systems: A Primer, 2008。邦訳『世界はシステムで動く』
  4. システム思考の「氷山モデル」(出来事・パターン・構造・メンタルモデル)