No. 72
メイキング
つくることは、素材と応えあいながら育てること
To know things you have to grow into them, and let them grow in you.
物を知るには、物のなかへ育っていき、物を自分のなかで育てなければならない。
Tim Ingold, Making, 2013
Episode部屋の中の凧
人類学者のティム・インゴルドは、学生たちと凧をつくる授業をしていました。まず机の上で、骨組みに紙を張って組み立てる。できあがった凧は、部屋の中では、ぐったりと動きませんでした。形はたしかに凧なのに、ただの材料の組み合わせでしかない。
学生たちは凧を持って、外へ出ます。風を受けたとたん、凧は身をよじり、引っぱり、空へ上がっていきました。凧は、風の中でしか飛ばない。手で糸を操る人がいても、飛ばすのは空気です。凧が凧になるのは、組み立てが終わったときではなく、風と応えあいはじめたときでした。
Origin形を押しつけるのではなく
物をつくると聞くと、私たちはふつう、こう考えます。まず頭の中に形があり、その形を、素材に押しつける。設計図があり、材料があり、その二つを合わせればものができる。インゴルドは、形と素材を分けるこの考え方を、古代ギリシャにさかのぼる名で呼び、問い直しました。
学生たちが、砂の上で、柳の枝からかごを編んだときのことです。柳は、思った形に曲げられることを嫌がりました。押せば跳ね返し、引けばしなる。編み手は、柳の手ごたえに合わせて手を動かすしかありません。できあがったかごには、誰も意図しなかった、美しい曲線が生まれていました。インゴルドは、つくることを、形を押しつけることではなく、育てることとして考えたいと書きます。つくり手は、動いている素材の世界に加わり、素材と力を合わせる一人なのだと。
Meaning設計図のない大聖堂
インゴルドは、中世の大聖堂にも目を向けます。フランスのシャルトル大聖堂は、一人の設計者の図面からできたのではありませんでした。少なくとも九人の親方石工が、三十ほどの短い工事に分かれて、少しずつ積み上げていった。工事が進んでいるあいだ、それが最後にどんな姿になるのか、誰にも分からなかったといいます。
それでも大聖堂は、一つの建物として立っています。全体は、最初の図面から割り出されたのではなく、多くの手が、その場の石と、前の人の仕事に応えながら積み重ねたあとに、浮かび上がってきました。凧が風と、かごが柳と応えあったように、つくることは、素材と、ほかの人と、時間と応えあうことでもあります。
So what木目に沿って
斧で木を割るとき、うまい人は、木目を見つけて、その筋に刃を入れます。木の中にすでにある道筋に沿えば、木は自然に割れていく。インゴルドは、つくることを、世界が育っていく筋目を見つけ、その流れに沿っていくことだと言います。
思いどおりにならない素材や状況を、邪魔ものと見なくてもいい。押し返してくる手ごたえは、どちらへ進めばいいかを教えてくれる合図です。頭の中の形に固執するより、手を動かして、素材の声を聞く。凧を外へ持ち出して、風に預けてみる。
Sources
- Tim Ingold, Making: Anthropology, Archaeology, Art and Architecture, Routledge, 2013(ch.1「Knowing from the inside」p.1、ch.2「The materials of life」pp.21–23 かご、ch.3 p.45 木目、ch.4「On building a house」p.57 シャルトル、ch.7「Bodies on the run」pp.99–101 凧。Google Books のプレビューで確かめた)
- ティム・インゴルド『メイキング ― 人類学・考古学・芸術・建築』金子遊・水野友美子・小林耕二訳、左右社、2017
- Tim Ingold, “The textility of making,” Cambridge Journal of Economics 34(1), 2010, pp.91–102(つくることは織ること、世界の生成の筋目に沿う)ideas.repec.org