No. 57

センス・メイキング

デザインは、物と誰かのあいだに意味を結ぶ

design is making sense (of things).

デザインとは、(物の)意味をつくることである。

Klaus Krippendorff, “On the Essential Contexts of Artifacts or on the Proposition That ‘Design Is Making Sense (Of Things)’,” Design Issues 5(2), 1989, p.9

Origin「しるしを付ける」という古い言葉から

デザインという語をさかのぼると、ラテン語の de と signare に行き着きます。何かをつくり、しるしを付けて見分けられるようにし、意味を与える営みです。そこからある研究者は、デザインとは「意味をつくること(making sense)」だと言い切りました。

この言い方は、わざと二通りに読めるように置かれています。一つは、意味を生み出す営みとしてのデザイン。もう一つは、つくられたものが、誰かにとって分かる、意味のあるものになること。その人は、二つ目のほうがもっと大切だと書いています。

括弧に入った「物の」にも、思いが込められています。人は物の形や素材そのものに反応しているのではなく、それが自分にとって何を意味するかに反応している。意味から切り離された物だけを語ることはできない、という考えです。

大熊座の星座カード。星を結ぶ線の上に、熊の姿が描かれている
大熊座。シドニー・ホールの星座カード『ウラニアの鏡』(1825)より。画像: Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

この考えの種は、デザインを学ぶ学生の卒業論文にありました。書いた人はそのあとデザインを離れ、別の学問へ進みます。けれど二つ下の後輩が、その論文のコピーを買い取って、いつも持ち歩いていました。二十年あまりのち、二人は一緒に一つの原稿を書き上げます。

Meaning物と、まだ来ない場面を結ぶ線

意味をつくるとは、物と、それが使われる場面とを結ぶことです。店先で椅子を椅子として見るとき、人はもう、家で腰を下ろす時間を思い浮かべています。

だから意味は、つくり手の手の中だけでは完結しません。使う人や関わる人にとって筋が通らないものは、どれほど美しくても、先へは進めてもらえません。

Stakeholders cannot be expected to proceed with anything that does not make sense to them.

関わる人は、自分にとって意味をなさないものを、先へ進めてはくれない。

— Krippendorff, 1989, p.30

Episodeちがう山の地図

組織の研究者カール・ワイクが、好んで引いた話があります。アルプスで演習をしていた小さな部隊が、吹雪の中で戻らなくなりました。二日たっても便りがなく、送り出した若い将校は、部下を死なせたと思いつめます。ところが三日目、部隊はひょっこり帰ってきました。

どうやって戻ったのかと聞くと、隊員の一人がポケットに地図を見つけたのだ、と言います。それで落ち着きを取り戻し、雪がやむのを待って、地図を頼りに道を見つけた。将校がその地図を手に取ると、それはアルプスの地図ではなく、遠く離れたピレネー山脈の地図でした。

ワイクはこの話から、正しい地図よりも、人を動かしはじめる地図のほうが大事なときがある、と読みとりました。地図があることで、隊員たちは立ち止まらず、互いに話しあい、周りを見て、少しずつ自分たちの居場所を確かめていった。意味は、正確さから生まれるより先に、動きながら、人と人のあいだで紡がれていくのです。

Meaningセンス・メイキング

ワイクは、人が混乱の中で「いま何が起きているのか」をつかもうとする営みを、センス・メイキングと名づけました。それは、すでにある意味を見つけることではなく、手がかりを拾い、筋の通る物語を仮に立て、動いてみて、また語り直すことのくり返しです。求められるのは正確さよりも、もっともらしさ。人は、振り返ってはじめて、自分が何をしていたのかを知るのだ、と彼は言います。

この言葉を、ビジネスの側から受けとめ直したのが、クリスチャン・マスビアウの『センスメイキング』です。数字やアルゴリズムが答えを出してくれる時代に、人の暮らしの文脈を読みとる力は、むしろ大切になっている。彼はそれを、人文学の知に根ざした力だと考えました。

個人ではなく文化を。薄いデータだけでなく、厚いデータを。動物園ではなく、サバンナを。製造ではなく、創造性を。GPS ではなく、北極星を。

— クリスチャン・マスビアウ『センスメイキング』の五つの原則より

アンケートの数字は、人が何をしたかを薄く教えてくれます。けれど、なぜそうしたのか、それがその人にとって何を意味したのかは、暮らしの場に入り、厚く記述してはじめて見えてきます。檻の中の動物ではなく、サバンナで生きる姿を見ること。道順を指示する GPS ではなく、向かう方角を示す北極星を持つこと。物の意味をつくる仕事は、まず人の世界の意味を読みとることから始まります。

So what点を線で結ぶと、物語になる

この考えを受け継いだ一冊の本は、デザインを、人間と社会と環境を結び直し、未来を構想するための総合的な知と実践として描いています。

意味をつくる相手は、一つの物だけではなくなってきました。物と、サービスと、伝え方。それらをひとまとまりのつながりとして考え、外の世界と付き合うための決まりや価値を組み立てる。ストラテジックデザインと呼ばれる考え方です。

要素がばらばらのままでは、意味は生まれません。ビジョンや方向性、目標といった上位の考えが、点と点を線で結びます。そして最後に、それは誰かにとっての物語になります。夜空の星は昔からそこにあって、線を引いて星座にしたのは、人でした。

Sources

  1. K. Krippendorff, “On the Essential Contexts of Artifacts or on the Proposition That ‘Design Is Making Sense (Of Things)’,” Design Issues 5(2), 1989, pp.9–39(p.9・p.12・p.30)。 repository.upenn.edu
  2. K. Krippendorff, The Semantic Turn: A New Foundation for Design, CRC Press, 2006。邦訳『意味論的転回 デザインの新しい基礎理論』エスアイビー・アクセス、2009
  3. Klaus Krippendorff の口述史(2016–17年収録、CC BY-NC 4.0)pp.96–97。 asc.upenn.edu
  4. A. Meroni, “Strategic design: where are we now? Reflection around the foundations of a recent discipline,” Strategic Design Research Journal 1(1), 2008, pp.31–38
  5. ジャンルカ・カレッラ、フランチェスコ・ズーロ編著『未来を創るストラテジックデザイン 新しい価値の構想に向けた、戦略としてのデザイン入門』羽山康之訳、ビー・エヌ・エヌ、2025。 bnn.co.jp
  6. Sidney Hall, Urania’s Mirror, 1825, Ursa Major。 Commons(パブリックドメイン)
  7. Karl E. Weick, Sensemaking in Organizations, Sage, 1995。邦訳 カール・E・ワイク『センスメーキング イン オーガニゼーションズ』遠田雄志・西本直人訳、文眞堂。アルプスの地図の話は、ミロスラフ・ホルプの詩による
  8. Christian Madsbjerg, Sensemaking: The Power of the Humanities in the Age of the Algorithm, Hachette Books, 2017。邦訳 クリスチャン・マスビアウ『センスメイキング 本当に重要なものを見極める力』斎藤栄一郎訳、プレジデント社