No. 04
間
速くしたいなら、広くとる
閒、隟也。从門从月。
閒は、すきまのこと。門と月から成る。
許慎『説文解字』門部
Episode何もしないところが、面白い
室町の能役者、世阿弥は、見物の人たちのこんな声を書きとめています。あの役者は、何もしないところが面白い。
世阿弥はそれを、役者が秘めている心づかいだと説きました。
せぬ所と申すは、その隙なり。(中略)これは油断なく心をつなぐ性根なり。
— 世阿弥『花鏡』「万能を一心につなぐこと」
舞と舞のあいだ、謡が途切れたところ。何もしていないように見える間にも、心は一本の糸のようにつながっている。そして、その心を外に見せてはいけない。見えてしまえば、それはもう、ただの技になる、と。
Origin門のすきまから、月が見える
「間」のもとの字は「閒」と書きました。門がまえの中に月。閉じた門のすきまから月の光がのぞく形と読める、時間にも空間にも使う一字です。
Meaning大きく数えると、速く弾ける
楽器を習うと、間のことを指で知ります。速い節が追いつかないとき、もっと細かく数えるのではなく、もっと大きく数えなさいと言われる。
二拍のあいだに三つの音を等しく置く二拍三連は、その分かりやすい例です。一拍ずつ刻んでいると、二つめと三つめの音は拍の線に乗らず、どうしてもそろわない。二拍ぶんを一つの広い間として思い描くと、三つの音は、すっと等しく並びます。
細かく刻むほど、音は拍に追われます。広くとった間の中でなら、音は自分の場所に落ち着く。速さは、刻みの細かさからではなく、間の広さから生まれるのです。世阿弥の「せぬ隙」も、何もしていない時間ではなく、前後の舞と謡を、心がつないでいる時間でした。
仕事でも同じことが起きます。トム・デマルコは、手の空いている人を削って全員を百パーセント忙しくした組織は、かえって遅くなると論じ、こう書きました。
Slack is the time when reinvention happens. It is time when you are not 100 percent busy doing the operational business of your firm.
ゆとりとは、つくり直しが起きる時間のことだ。目の前の業務で百パーセント忙しくはしていない時間のことだ。
— Tom DeMarco, Slack, ch.1
So what細かく刻まず、広くとる
一音ずつ追いかけて、指がもつれる。予定を隙間なく詰めて、次から次へと手を動かす一日は、その演奏に似ています。
急ぐ日ほど、ひと呼吸おいて、大きなまとまりで眺める。予定には、何も入れない時間を一つ残しておく。門のすきまから月が見えるように、空けておいた間に、次の一手が入ってきます。速くしたいなら、広くとる。
Sources
- 許慎『説文解字』巻十二上・門部「閒、隟也。从門从月」。Wikisource
- 世阿弥『花鏡』「万能綰一心事(万能を一心につなぐこと)」。本文は『日本の思想 8 世阿弥集』筑摩書房、1970 による(言の葉庵の転載)
- Tom DeMarco, Slack: Getting Past Burnout, Busywork, and the Myth of Total Efficiency, Broadway Books, 2001, ch.1 “Madmen in the Halls”。出版社の許諾による抜粋: AbeBooks。邦訳『ゆとりの法則 ― 誰も書かなかったプロジェクト管理の誤解』伊豆原弓訳、日経BP社、2001。CiNii
- 図は二拍三連の拍の割り方を描いたもの