No. 93
ライフ・オブ・ラインズ
生きることは、線を伸ばし、ほかの線と結ぶこと
To live, every being must put out a line, and in life these lines tangle with one another.
生きるために、どんなものも一本の線を伸ばさなければならない。そして生のなかで、それらの線は互いに絡みあう。
Tim Ingold, The Life of Lines, 2015
Episode手をつなぐ踊り手
アンリ・マティスの絵に「ダンス」という一枚があります。裸の踊り手たちが輪になって、跳ねるように踊っている。人類学者のティム・インゴルドは、この絵を、人の形ではなく線として眺めました。

踊り手の体は、一人ひとりが勢いのある線です。その線と線が、手のところで結ばれている。輪は、いまにも閉じようとして、決して閉じきらない。手前の二人の手は、届きそうで届いていません。手は、ただ体の端にあるのではなく、一緒にいることを生み出すものだ、とインゴルドは書きます。引く力が強いほど、握る手も固くなる。
Originかたまりと線
インゴルドは、世界を二通りに見る見方を示しました。一つは、かたまりとして見る見方です。かたまりには、量があり、重さがあり、密度がある。かたまりは、私たちに素材を与えてくれます。
もう一つは、線として見る見方です。線には、量も重さもありません。そのかわりに、ねじれと、しなりと、生き生きとした勢いがある。線は、私たちに生を与える、と彼は言います。物を、閉じたかたまりの集まりとしてではなく、伸びていく線と、その線が絡みあった結び目として見る。本の三つの部は、結び目をつくること、天候にさらされること、人間になること、と名づけられています。
Meaning線を伸ばさなければ、つかまれない
何かにつかまっていられるのは、線を伸ばしたものだけです。そして、その線がほかの線と絡みあえるときだけ。インゴルドは、すべてがすべてと絡みあってできあがったものを、メッシュワーク、網の目と呼びました。
網の目の中で、一本一本の線は、ほかのすべての線に応えています。答えあい、呼びかけあう。彼はこれを、照応と呼びます。点と点を結んだ地図のようなつながりではなく、それぞれが動きながら、互いの動きに合わせて伸びていくつながりです。踊り手の手が、引く力に応えて握り返すように。
So what線を伸ばして、結ぶ
人や物を、動かない点として見ていると、つながりは線を一本引くだけの作業に見えます。けれど、相手もまた伸びていく線です。一度結べば終わりではなく、互いに応えあうことで、結び目は保たれます。
だから、自分から線を伸ばします。届くかどうか分からなくても、手を差し出す。結んだあとも、引く力に応えて握り返す。そうして、誰かの線と絡みあったところが、自分の生きている場所になっていきます。
Sources
- Tim Ingold, The Life of Lines, Routledge, 2015(Part I “Knotting”、ch.1。メッシュワーク、かたまりと線、照応、マティスの「ダンス」)routledge.com
- ティム・インゴルド『ライフ・オブ・ラインズ ― 線の生態人類学』筧菜奈子・島村幸忠・宇佐美達朗訳、フィルムアート社、2018
- ティム・インゴルド『ラインズ ― 線の文化史』工藤晋訳、左右社、2014(原著 Lines: A Brief History, 2007)