No. 61
機会発見
分ける前に、枠の外を見にいく
Because innovation is both conceptual and perceptual, would-be innovators must also go out and look, ask, and listen.
イノベーションは、頭で考えるものであると同時に、目で見て感じとるものでもある。だから、新しいものを生みだそうとする人は、外へ出て、見て、尋ねて、耳を傾けなければならない。
Peter F. Drucker, “The Discipline of Innovation,” 1985
Episode朝のミルクシェイク
あるファストフードの店が、ミルクシェイクの売上を伸ばそうとしました。まず、よく買う人たちの年齢や好みを調べて客の像を描き、その像に当てはまる人たちを集めて尋ねます。もっと濃いほうがいいか、チョコレートを強くするか、安くするか、具を増やすか。答えははっきり返ってきて、そのとおりに作り直しました。けれど、売上は少しも動きませんでした。
そこで別の調べ手が、店に長い一日立ってみることにしました。いつ買われたか。ほかに何を一緒に買ったか。一人か、連れがいたか。店で飲んだか、車で持ち去ったか。驚いたことに、ミルクシェイクの四割は朝早くに売れていました。買うのはたいてい一人で、ほかには何も買わず、車の中で飲んでいく。
店を出る人に尋ねると、わけが見えてきます。長く退屈な通勤の道のりを、少しでもましにしたい。昼までお腹をもたせたい。急いでいて、仕事の服を着ていて、空いている手は片方だけ。細いストローで濃いシェイクを吸うと二十分はかかり、片手で汚さずに飲めて、十時になってもお腹がすかない。ベーグルやバナナやドーナツと比べて、ミルクシェイクがいちばんうまくその役目を果たしていたのです。客の像をいくら細かく分けても、この朝の車の中は見えてきませんでした。
Origin分けて選ぶか、外へ探しにいくか
ストラテジックデザインを教える岩嵜博論は、新しい市場のつくり方を本と講義で説き、講義で一枚の図を示しました。課題を前にしたとき、道は二つに分かれる、という見取り図です。
上の道は、分析的アプローチ。すでに分かっている問題を分析して分解し、優先順位をつけて、一つを選びます。下の道は、機会発見アプローチ。枠の外にある視点を探しにいき、持ち帰ったものを統合して構造にし、まだ無い可能性をつくり出します。
Meaning選べるのは、枠の中のものだけ
分析は、枠の中から最もよい一つを選ぶのが得意です。ただ、選べるのは、最初に引いた枠の中にあるものだけ。濃さ、チョコレート、値段、具。四つの改善案を並べれば、四つのうちのどれかしか出てきません。漏れなく、重なりなく分けるほど、答えは枠の内側で整っていきます。
機会発見は、まず枠の外を歩きます。人の暮らしを見にいき、どんな場面で何が起きているかを書きとめ、ゆっくり話を聞く。持ち帰ったかけらは最初ばらばらですが、結び方を変えると、重なりの中に新しい形が浮かびます。朝、一人、車、片手、退屈。どれも一つだけでは何も言いませんが、重ねると、通勤の相棒という、最初の枠には無かった答えになる。図の最後が一つの四角ではなく、重なり合う三つの丸なのはそのためです。
So whatいま、どちらの道にいるか
すぐれた革新者は右の脳と左の脳の両方を使う、とドラッカーは書いています。何が求められているかを分析で詰め、それから使う人を見にいく。二つの道に優劣はありません。限られたものの中から確かに選ぶ場面では、分析が力になります。けれど、いままでにないものを探しているのに、分ける・比べる・選ぶ道具しか持っていないと、見慣れた答えに戻ってきてしまいます。
迷ったときは、自分がいまどちらの道にいるかを確かめます。枠の中で選んでいるのか、枠の外へ探しにいっているのか。後者なら、尋ねる前に、まず見にいく。それが分かるだけで、手に取る道具が変わります。
Sources
- Peter F. Drucker, “The Discipline of Innovation,” Harvard Business Review, May–June 1985(2002 年 8 月号に再掲)hbr.org/2002/08/the-discipline-of-innovation
- Clayton M. Christensen, Scott Cook, Taddy Hall, “Marketing Malpractice: The Cause and the Cure,” Harvard Business Review, December 2005(ミルクシェイクの事例。店名と商品は伏せて書かれている)hbr.org/2005/12/marketing-malpractice-the-cause-and-the-cure
- 岩嵜博論『機会発見――生活者起点で市場をつくる』英治出版、2016 eijipress.co.jp
- 図は、岩嵜博論が講義で示した「図1 分析的アプローチと機会発見アプローチ」をもとに描き直したもの
- 機会発見の定義(要約)flierinc.com/summary/990