No. 13
違和感をもったとき
変えられない仕組みの前でも、できることがある
Episodeなんで?の数
子どもは、違和感だらけです。どうして夜は暗いの。どうして大人はお金を払うの。どうして学校に行かなきゃいけないの。事あるごとに、なんで、なんで、と問いを投げてきます。
大人になると、その数は減っていきます。答えが分かったからではありません。違和感を持っても、自分にはどうにもできない大きさだと分かると、違和感はなかったことになっていくのです。仕組みには、変えられる大きさのものもあれば、変えられない大きさのものもあります。
Origin変える以外の、四つの手
けれど、変えられないからといって、違和感を手放してしまうのはもったいない。変える以外にも、違和感を持ったときにできることがあります。抵抗する。離れる。適応する。組み直す。
Meaning流れの中で、失われるものに光を当てる
抵抗する。機械による大量生産で粗悪な品があふれた時代に、手仕事に帰り、暮らしと芸術を一つにしようと訴えた人たちがいました。その中心にいたのが、ウィリアム・モリスです。
モリスは産業的な大量生産に猛烈に反対した。モリスは、環境汚染、疎外された労働、粗悪な大量商品という産業化の結果を、悪魔のような資本主義的な作り物であり人類の敵であると考えた。
— トーマス・ハウフェ『近代から現代までのデザイン史入門』
技術の進む流れそのものは止められませんでしたし、抵抗は長くは続きません。けれど、流れの中で失われていくものに光を当てたこと自体が、まわりの価値観を少しずつ動かしていきました。
離れる。仕組みの輪から一歩外へ出る。湖のほとりに小屋を建てて暮らしたソローは、持たないことの身軽さを、こんなふうに書いています。
僕はしっかりした、明るい清潔な家に住んでいるが、それを建てるのにかかった費用は、あなたの家のようなあばら家の、一年分の家賃とほとんど変わらない。(中略)僕はお茶もコーヒーも、バターもミルクも、新鮮な肉も口にしないので、こういうものを買うために働く必要がない。(中略)だったら、結局は働いても働かなくても同じことではないか。
— ヘンリー・デイヴィッド・ソロー『孤独の愉しみ方』
輪の一部であることをやめるのも、違和感に対する一つの意思表示です。何を食べないかを選ぶ暮らし方も、同じ形をしています。
適応する。仕組みには逆らわず、見方を変える。新しいものさしを一本足すだけで、「よい」の意味が変わることがあります。
いまの資本主義は、とにかくフロー、つまり早く大きく儲けることをがむしゃらに追い求めます。もしフローだけを基準にして考えれば、それが正解でしょう。しかし、それでは長期的最適化からはどんどんかけはなれていってしまいます。私たちはいまの資本主義に、「時間軸」というモノサシを加えなければならないのです。
— 新井和宏『持続可能な資本主義』
短く見て正しいことと、長く見て正しいことは違う。そう分かれば、仕組みは同じでも、何を目指すかが変わります。
組み直す。仕組みがどんな力で動いているのかを見きわめて、仕組みそのものを組み直す。システムを考え続けた科学者ドネラ・メドウズは、こう書きました。
こう言った問題が解決に向かうのは、私たちが自らの直感を取り戻し、非難をどこかへ向けるのをやめ、システムをそれ自体の問題の源であると見、そのシステムを“再構築する”勇気と知恵を見いだしたときだけです。(中略)ほっとすることでしょう。「解決策は私たちの手の中にある」のですから。一方で、心をかき乱すものです。
— ドネラ・H・メドウズ『世界はシステムで動く』
組み直すことまでできなくても、仕組みを注意深く見ているうちに、違和感の根がじつは別のところにあると気づくこともあります。
So what違和感を、なかったことにしない
決まったやり方からはみ出して動くのは、手間がかかります。言われたとおりにやるより、ずっと時間もかかる。
けれど違和感をなかったことにし続けると、自分の仕事は、ほかの誰にでもできることばかりになっていきます。そしていつのまにか、人でなくてもできることになっているかもしれません。変えられなくても、抵抗する、離れる、適応する、組み直す。違和感を手放さずにいることが、その人にしかできない仕事の入口なのだと思います。
Sources
- トーマス・ハウフェ『近代から現代までのデザイン史入門 ― 1750-2000年』藪亨訳、晃洋書房、2007
- ヘンリー・デイヴィッド・ソロー『孤独の愉しみ方 ― 森の生活者ソローの叡智』服部千佳子訳、イースト・プレス、2010
- 新井和宏『持続可能な資本主義』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2017
- ドネラ・H・メドウズ『世界はシステムで動く ― いま起きていることの本質をつかむ考え方』枝廣淳子訳、英治出版、2015
- 書き手の note「身の回りの仕組みに、違和感を持ったとき」(2020)をもとに書き直したもの