No. 73

イメージメント

思い描き、整え、また思い描く

Episode結論を言わない監督

ラグビーの平尾誠二は、大学で選手権の三連覇、社会人で日本選手権の七連覇の中心にいた人です。その平尾が、編集者の松岡正剛と長い対談をしたことがあります。話はやがて、大学時代の監督のことに及びました。

その監督は、選手に何をしろとは、まず言わなかったといいます。言うときも言い切らない。このときはこう行ける、こういう考え方もある、と、やり方をいくつも見せるだけで、結論は出さずに、あとはお前たちで決めろと立ち去ってしまう。平尾はそのおかげで、ものの見方の幅が広がったと振り返ります。松岡はその話を受けて、それは選手にイマジネーションが残る教え方で、マネージメントよりもイメージメントを重んじている、と応じました。

平尾は、ラグビーには静的な要素と動的な要素があると言います。静的なものは、だいたいデータになる。動的なものはイメージにしかならず、それが働かなければ試合にならない。しかも、ひとつだけのイメージは、じつはマネージと同じで、ただのスキルにすぎない。たくさんのイメージを思い浮かべて、自分の頭の中でラグビーを広げていかなければだめだ、と。

Originマネージメントと、イメージメント

「イメージメント」は、松岡正剛が「マネージメント」と対にして使った言葉です。思いついたのは二十代の後半、デザインの学校で教えていたころだったといいます。見たものと、頭に浮かぶ像と、描いて表したものとのあいだには、いつもずれや強調や歪みが生まれる。それを学生たちに感じてもらおうと、授業を工夫していたときのことでした。

イメージ化されたものは必ず知覚組織によってそれなりにマネージされているし、その過去にマネージされた知覚や記憶によって新たなイメージが引っ張られているのだから、われわれはイメージをたえずイメージメントしているわけなのである。

— 松岡正剛「1784夜 ゴットフリート・ベーム『図像の哲学』」『千夜千冊』

思い描くことと、整えて扱うことは、別々の仕事ではありません。浮かんだ像は、すでに何かの形で整えられていて、整えられた記憶が、また次の像を引き出す。イメージメントとは、この往復をひと続きのものとして見ることです。

イメージとマネージの往復 左の円に「イメージ 思い描く」、右の円に「マネージ 整えて扱う」。上の弧が左から右へ向かい「像を形にする」、下の弧が右から左へ戻り「整えたものが、次の像を引き出す」と添えられている。 イメージ思い描く マネージ整えて扱う 像を形にする 整えたものが、次の像を引き出す
どちらか一方ではなく、行き来させる

Meaning像は、整えられたときに速くなる

対談の本が仕上がる間際、平尾は松岡に、イメージはマネージされたときに加速する、と話したそうです。本の題はそこから来ています。

陣形が決まっているから、選手はその上で自由に走れる。約束ごとがあるから、仲間がどこへ走るかを思い描ける。整えることは、像を縛るものではなく、像が走るための地面です。反対に、地面ばかり固めて、その上を走る像がなければ、どれだけ正しく整えても、どこへも向かいません。大学の監督が答えを渡さなかったのは、地面だけを渡して、像は選手の頭の中で育てさせるためでした。思い描くことと整えることを切り離さず、行き来させる。それがイメージメントです。

So what決めることと、残すこと

仕事を頼むときに手順を細かく書いて渡すと、たしかに間違いは減ります。そのかわり、相手の頭の中には像が残りません。

決めるのは地面のところだけにする。その先は、どんな景色を目指しているのかを言葉や絵にして手渡し、答えの代わりに、いくつかのやり方を置いていく。走りたくなる像を受けとった人は、指示を待たずに動きはじめます。

Sources

  1. 松岡正剛「1784夜 ゴットフリート・ベーム『図像の哲学』」『千夜千冊』1000ya.isis.ne.jp
  2. 平尾誠二・松岡正剛『イメージとマネージ ― リーダーシップとゲームメイクの戦略的指針』集英社、1996(監督の話 pp.45–46、題の由来 p.258。対談の言葉は下の二つの記事の引用による)
  3. 佐々木孝仁「【マネジメント】『イメージとマネージ』(平尾誠二・松岡正剛)を読んで」note、2023 年 5 月 22 日 note.com
  4. 丸洋子「編集用語辞典 20[イメージメント]」『遊刊エディスト』2025 年 3 月 18 日 edist.ne.jp(ラグビーの静と動の話)
  5. 「平尾誠二」Wikipedia