No. 75
早く出す
待たせるほど、期待は上がる
If you are not embarrassed by the first version of your product, you’ve launched too late.
最初の版を恥ずかしいと思わないなら、出すのが遅すぎたのだ。
Reid Hoffman
Episode一週間後に届いた資料
同じ頼まれごとに、二人が応えたとします。一人は次の日に、まだ粗い下書きを持ってきました。もう一人は、一週間かけて磨きあげた資料を持ってきました。中身は、どちらも同じくらいの出来です。
けれど、受けとった側の感じ方は違いました。次の日の下書きには、早いね、ここをもう少し、と言葉が返る。一週間後の資料には、これだけ時間をかけたのに、と少しがっかりした顔が返る。出来が同じでも、待った時間のぶんだけ、期待のほうが先に大きくなっていたのです。
Origin満足は、期待との差で決まる
人がものごとに満足するかどうかは、その出来そのものではなく、あらかじめ抱いていた期待との差で決まる、という考え方があります。期待を上回れば満足し、下回ればがっかりする。マーケティングの研究では、期待不一致の理論と呼ばれています。
そして期待は、待つ時間とともに上がっていきます。時間をかけているのだから、さぞよいものが来るだろう、と。出来のほうはゆるやかにしか上がらないのに、期待はそれより速く上がる。だから、ある時点を過ぎると、どれだけ磨いても、期待に追いつけなくなるのです。
Meaning恥ずかしいうちに、出す
人づてのつながりの場を育てた起業家のリード・ホフマンは、最初の版を恥ずかしいと思わないなら、出すのが遅すぎる、と言いました。完璧になるまで待っていると、そのあいだに期待だけがふくらみ、世の中のほうも先へ進んでしまう。
早く出すことには、もう一つの良さがあります。粗いうちに見せれば、相手の言葉を受けて、いくらでも直せる。磨きあげてからでは、直すことそのものが惜しくなる。早く出すのは、手を抜くためではなく、相手と一緒に、よりよいものに近づくためなのです。
心理学者のケネス・クレイクは、考えるとは、頭の中の小さな模型を動かすことだと言いました。
If the organism carries a “small-scale model” of external reality and of its own possible actions within its head, it is able to try out various alternatives, conclude which is the best of them, react to future situations before they arise …
もし生き物が、外の現実と、自分がとりうる行動の「小さな模型」を頭の中に持っているなら、いくつもの選択肢を試し、どれが最善かを決め、事態が起こる前にそれに備えることができる。
Kenneth Craik, The Nature of Explanation, 1943
橋を架ける人が、本物を建てる前に縮尺の模型に重りを載せてみるように。粗い下書きは、相手と一緒に動かせる小さな模型です。模型の値打ちは、正確さよりも、本物で失敗する前に、模型の上で失敗できるところにあります。
So what期待が追い越す前に
よいものを渡したいと思うほど、私たちは手もとで磨きつづけてしまいます。けれど待たせた時間は、静かに期待を積み上げていきます。
だから、まだ恥ずかしいうちに、さっと出してみる。そして、返ってきた言葉で直していく。期待が出来を追い越す前に手渡すこと。それが、相手をがっかりさせず、よいものへ早くたどり着く道なのだと思います。
Sources
- Richard L. Oliver, “A Cognitive Model of the Antecedents and Consequences of Satisfaction Decisions,” Journal of Marketing Research 17(4), 1980(期待不一致理論)
- Reid Hoffman の言葉として広く知られる
- Kenneth J. W. Craik, The Nature of Explanation, Cambridge University Press, 1943