No. 69

振り子

考えることと作ることを、行ったり来たり

Prototyping is a pendulum that swings between the concrete act of ‘making’ and the abstract of ‘thinking’.

プロトタイピングは、「作る」という具体の行いと、「考える」という抽象のあいだを揺れる振り子である。

Yosuke Ushigome(Takram), “How Prototyping Can Be Used as a Critical Thinking Tool to Visualize Future Unknowns,” Core77, 2020

Episode水筒を頼まれて、臓器をつくった

ある芸術祭で、デザインとエンジニアリングの事務所に、一つの依頼が届きました。百年後の、荒れ果てた地球で使う水筒をつくってほしい、というものです。

考えるうちに、作り手たちは立ち止まります。水筒は、水がたっぷりあることを前提にした道具です。水そのものが乏しい世界では、器をいくら工夫しても答えになりません。そこで問いを裏返しました。体から出ていく水を減らせれば、人が必要とする水も減るはずだ、と。

こうして水筒は、体そのものになりました。吐く息を鼻の中で露に戻す器官、首に巻いて熱を逃がす襟、使った水を体に戻す小さな臓器。差し出されたのは、人の体を水の器として描き直した、架空の人工臓器の一式でした。頼まれたものを作らずに、頼まれた理由に答えたのです。

Origin二つの極のあいだを揺れる

この事務所を率いる田川欣哉さんたちは、自分たちの仕事の芯を、一冊の本で「振り子」と呼びました。デザインとエンジニアリング、ものがたりとものづくり、抽象と具象。二つの領域のどちらかに留まらず、そのあいだを何度も往復する考え方です。

振り子には、いくつかの型があります。作ることと考えることを行き来するプロトタイピング。製品が目指すものと、会社が長く大事にしてきたものを、物語として織り合わせるストーリーウィーヴィング。そして、水筒の話のように、問いと答えを行き来して問題そのものを組み替えるリフレーミング。どれも、一人の人の中に、いくつもの視点を住まわせるための方法です。

三つの振り子 一つの支点から三つの弧が下がる。内側は「考える」と「作る」、真ん中は「抽象」と「具象」、外側は「問題」と「解決」を結ぶ。おもりは右へ振れている。 考える作る抽象具象問題解決
行き来する二つの極。振れ幅が大きいほど、遠くまで届く

Meaning作ってから、考える

プロトタイプは、できあがった考えを形にするためのものではありません。考えを引き出すきっかけです。頭の中のアイデアは想像の分だけ自由ですが、手に取れる形にしようとした瞬間、思ってもみなかった問いが立ち上がります。たとえ作れないと分かったアイデアでも、作ろうとした跡が、次の向きを教えてくれます。

形にすると、人のあいだで考えが揃うようにもなります。言葉で説明するより、絵で見せるより、触れられるものを机に置くほうが、抽象的な考えは早く伝わります。デザインとは、ばらばらなものを一つに統合すること。その統合は一度では決まらず、仮説をつくって、壊して、また組み直すうちに、少しずつ見えてきます。

So what振れ幅が、質になる

片方に留まって磨き続けると、ものは元の案の近くでしかよくなりません。考えるだけでも、作るだけでも、遠くへは行けない。大きく振れたぶんだけ、最初には見えなかった場所に手が届きます。

練れば練るほど、ものはよくなっていきます。何度も行き来した人にだけ、ある日ふっと分かる瞬間が訪れる。振り子の振れ幅が、そのまま、できあがるものの質になるのだと思います。

Sources

  1. takram design engineering(田川欣哉・渡邉康太郎)『takram design engineering|デザイン・イノベーションの振り子』LIXIL出版、2014
  2. Yosuke Ushigome, “How Prototyping Can Be Used as a Critical Thinking Tool to Visualize Future Unknowns,” Core77, 2020(連載「Pendulum Thinking」)core77.com
  3. Takram, Shenu: Hydrolemic System(dOCUMENTA(13), 2012)takram.com