No. 80

風の人・土の人

軽さと重さが和して、文化が生まれる

風は遠くから理想を含んでやってくるもの
土はそこにあって生命を生み出し育むもの
君、風性の人ならば、土を求めて吹く風になれ
君、土性の人ならば風を呼びこむ土になれ

玉井袈裟男「風土舎」設立宣言より

Episode都市にしか住めない未来は、いやだ

多くの人が都市に集まり、山あいや海辺の集落は、少しずつ人の気配を失っていく。このまま進めば、人は都市にしか住めなくなるのではないか。データと科学で問題を解いてきた安宅和人は、その未来に、強い違和感を覚えました。

そこで彼は仲間とともに、都市の外に、人が自然とともに生き生きと暮らせる場所をつくる構想を立ちあげます。名づけて「風の谷」。森と川の流れ、暮らしを支える仕組み、エネルギー、学び、食と農。そうしたすべてを一から考えなおし、数十年では終わらない、何世代にもわたる取り組みとして描いた一冊が、『「風の谷」という希望』です。

Origin風の人と、土の人

地域に新しい息吹を吹きこもうとするとき、よく語られる言葉があります。外からやってくる風の人と、その土地に根を張る土の人。信州で長く地域づくりにたずさわった農学者、玉井袈裟男は、人には風の性と土の性がある、と言いました。

土は風の軽さを嗤い、風は土の重さを蔑む
愚かなことだ
(中略)
風は軽く涼やかに
土は重く暖かく
和して文化を生むものを

玉井袈裟男「風土舎」設立宣言より

風土という言葉は、動くものと動かないもの、風と土が出会うところに生まれる。そして宣言は、魂を耕せばカルチャー、土を耕せばアグリカルチャー、と続きます。文化とは、風と土が和したところに育つものなのです。

Meaning軽さと重さが、和すところ

風の人は、遠くの理想や新しいやり方を運んできます。けれど、風だけでは何も根づきません。吹きぬけていったあとには、何も残らない。土の人は、その土地の歴史や暮らしの知恵を抱えて、命を育みつづけます。けれど、土だけでは、新しい種が届かず、いつのまにか同じものばかりが育つようになる。

どちらが偉いのでもありません。風が土を軽んじ、土が風を疎んじたとき、その土地は痩せていく。風が土を求めて吹き、土が風を呼びこむとき、はじめて、そこにしかない文化が芽を出す。風の谷という構想もまた、都市から吹く風と、その土地に根ざす土とが出会う場所を、長い時間をかけてつくろうとする試みなのでしょう。

So what自分は、風か、土か

新しい場所に飛びこむとき、私たちは風の人になります。一つの場所に根を張って暮らすとき、土の人になります。多くの人は、その両方を、人生のどこかで経験します。

だから、ときどき自分に問いかけてみる。いま自分は、風か、土か。風であるなら、土を軽んじずに、根づく場所を求めて吹く。土であるなら、風を疎まずに、新しい種を呼びこむ。軽さと重さが和すところに、残すに値する未来が育っていくのだと思います。

Sources

  1. 安宅和人『「風の谷」という希望 ― 残すに値する未来をつくる』英治出版、2025
  2. 玉井袈裟男「風土舎」設立宣言。本文は note(とやま移住) の引用による