No. 31

チェスタトンの柵

壊す前に、建てた理由を知る

If you don’t see the use of it, I certainly won’t let you clear it away. Go away and think.

その使い道が分からないのなら、取り払わせるわけにはいかない。帰って、考えてきなさい。

G. K. Chesterton, The Thing, 1929

Episode道をふさぐ柵

一本の道を、柵がふさいでいます。なぜそこにあるのか、誰にも分かりません。通るのに邪魔なだけに見えます。

ある改革者が、柵を見て言います。こんなものの使い道は分からない、取り払ってしまおう。すると、もう少し賢い改革者が答えます。使い道が分からないのなら、なおさら取り払わせるわけにはいかない。帰って考えてきなさい。なぜこれが建てられたのか分かったら、そのときは壊してもいい、と。

丸い眼鏡をかけ、髪を後ろになでつけた男性の肖像写真。少し横を向き、穏やかな表情をしている。
G・K・チェスタトン(1909)。画像: Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

Originチェスタトンの柵

このたとえ話を書いたのは、イギリスの作家 G・K・チェスタトンです。推理小説「ブラウン神父」の生みの親として知られ、逆説の名手と呼ばれました。改めることと壊すことは違う。その違いを示すために、チェスタトンは道に一本の柵を立ててみせたのです。

のちにこの話は「チェスタトンの柵」と呼ばれ、制度やしくみを変えるときの心得として、繰り返し引かれるようになりました。

Meaning理由の見えないものにも、理由がある

柵を建てるのは、手間のかかることです。誰かが、何かの理由があって、わざわざ建てた。その理由がいまの自分に見えないのは、理由がないからではなく、自分がまだ知らないからかもしれません。

Bad design happens for good reasons.

悪いデザインは、よい理由から生まれる。

Chris Lüscher, iA Zurich

使いにくい画面も、遠回りな手順も、たいていは誰かが怠けた結果ではありません。限られた時間、譲れない約束、そのとき守りたかった誰か。一つひとつはもっともな理由が重なって、外から見ると不格好な形ができあがります。

古いきまり、続いている習わし、なぜか残っている手順。見慣れないものほど、無駄に見えます。けれど取り払ったあとで、その柵が牛の逃げ道をふさいでいたと分かっても、出ていった牛は戻りません。

この話は、何も変えるなと言っているのではありません。理由を知ったうえでなら、柵は壊してよい。もう役目を終えたと分かれば、むしろ壊すべきです。大事なのは、壊すかどうかの前に、なぜそこにあるのかを確かめる一手間です。

So what壊す前に、建てた人を想う

新しい場所に入ると、目につく古いものをすぐ片づけたくなります。そんなときは、いったん手を止めて、これを建てた人は何を守ろうとしたのだろう、と考えてみる。

調べてみて、やはり要らないと分かれば、そのときは迷わず取り払えばいい。理由を知ってから壊した柵は、ただ壊した柵とは違います。前の人の考えを受け取ったうえで、次の道を開くことができるのだと思います。

Sources

  1. G. K. Chesterton, The Thing, 1929。“The Drift from Domesticity” の章
  2. “G. K. Chesterton — Chesterton’s fence,” Wikipedia en.wikipedia.org