No. 67
エフェクチュエーション
手の中にあるものから始める
Episode冷蔵庫をあけてつくる料理
夕飯をつくる方法は、二つあります。一つは、先に献立を決めること。今夜は肉じゃがにしようと決めて、レシピを開き、足りない材料を買いに行き、手順どおりにつくります。
もう一つは、冷蔵庫をあけてみること。じゃがいもが二つ、玉ねぎが半分、昨日の残りの鶏肉。そこにあるもので、何がつくれるかを考える。できあがる料理は、あけてみるまで分かりません。ときには、どの本にも載っていない一皿が生まれます。
Origin熟達した起業家の考え方
経営学者のサラス・サラスバシーは、何度も事業を興してきた熟達した起業家たちに、同じ架空の事業の課題を解いてもらい、考えていることを声に出してもらいました。すると多くの起業家が、市場を調べて目標を定めるより先に、自分の手の中にあるものから考えはじめていました。
サラスバシーは、目標から逆算して手段を選ぶ考え方をコーゼーション、手持ちの手段から何ができるかを広げていく考え方をエフェクチュエーションと名づけました。冷蔵庫をあける料理人のやり方です。
Meaning予測するより、つくりながら決める
エフェクチュエーションには、いくつかの心得があります。いま手の中にあるもの、自分が何者で、何を知っていて、誰を知っているかから始める。うまくいったときの見返りより、失っても構わない範囲で賭ける。出会った人を仲間に引き入れ、その人の持ちものも合わせて形を変えていく。思いがけない出来事を、計画の邪魔ではなく、手がかりとして使う。
そしてその底には、未来は予測するものではなく、自分たちの手でつくれるものだ、という見方があります。先が読めないときほど、読めない未来を当てにするより、手の届くところから動いて、動きながら決めていくほうが確かなのです。
So whatあるものから、始める
何かを始めようとするとき、足りないものばかりが目につきます。資金も、時間も、人も、まだ揃っていない。揃うまで待とうと思ううちに、季節が過ぎていきます。
そんなときは、冷蔵庫をあけるように、自分の手の中を見てみる。いま持っているもの、いま知っている人、いま失っても構わないもの。そこから一皿つくってみると、次に必要な材料が、向こうからやって来ることがあります。完璧な献立より、今夜つくれる一皿から。遠くへ行く道は、そこから始まるのだと思います。
Sources
- Saras D. Sarasvathy, “Causation and Effectuation,” Academy of Management Review 26(2), 2001
- Saras D. Sarasvathy, Effectuation: Elements of Entrepreneurial Expertise, Edward Elgar, 2008。邦訳 サラス・サラスバシー『エフェクチュエーション ― 市場創造の実効理論』碩学舎、2015