No. 82

ディフューズ・デザイン

誰もが、暮らしの中でデザインしている

Everybody is endowed with the ability to design, but not everybody is a competent designer and few become professional designers.

誰もがデザインする力を授かっている。けれど、誰もが腕のいいデザイナーになるわけではなく、それを仕事にする人はさらに少ない。

Ezio Manzini, Design, When Everybody Designs, 2015, ch. 2, p. 37

Episode空いた一部屋

ミラノには、かつて家族と暮らした家に、いまはひとりで暮らすお年寄りがたくさんいます。家には、使われていない部屋が少なくとも一つある。同じ町には、遠くから大学に来て、安い下宿を探している学生もたくさんいます。

あるとき、この二つの困りごとが、じつは互いの答えになりうると気づいた人たちがいました。お年寄りには空いた部屋があり、学生には時間と元気と、少しの家賃がある。一緒に暮らせば、どちらも助かる。けれど、見知らぬ同士がいきなり一つ屋根の下で暮らすのは難しい。そこで彼らは、二人が出会い、信頼を育て、つまずいたときに相談できる手立てを、一つずつ用意していきました。

十年のあいだに結ばれた約束は650を超え、うまくいかなかったのは8組だけでした。どう一緒に暮らすかを決めたのは、お年寄りと学生自身です。二人は、自分たちの暮らしを、自分たちで組み立てました。

Origin走ることと、マラソンと

この例を本に書いたデザインの研究者エツィオ・マンズィーニは、デザインを走ることにたとえます。誰でも走れる。けれど、誰もがマラソンに出るわけではなく、走ることを仕事にする人はわずかです。デザインも同じで、誰もが暮らしの中で、生まれつきの力を使ってデザインしている。彼はこれをディフューズ・デザイン、広く行きわたったデザインと呼び、学んで仕事として行うエキスパート・デザインと並べました。

そこにもう一本の軸を重ねます。目の前の問題を解く働きと、物事に意味を与える働き。二本の軸を十字に重ねると、デザインが行われている場所の地図ができあがります。

デザインの地図 縦の軸の上は「専門家のデザイン」、下は「広く行きわたったデザイン」。横の軸の左は「問題を解く」、右は「意味をつくる」。四つの区画は、左上が技術と組むデザインの事務所、右上が表現と伝達のデザインの事務所、左下が草の根の集まり、右下が文化の活動家。 技術と組むデザイン事務所 表現と伝達のデザイン事務所 草の根の集まり 文化の活動家 専門家のデザイン 広く行きわたったデザイン 問題を解く 意味をつくる
デザインが行われている四つの場所。エツィオ・マンズィーニ『Design, When Everybody Designs』の図 2.1「デザインのモードの地図」をもとに描き直したもの

Meaning地図の下半分にも、デザインがある

デザインと聞くと、多くの人は地図の上半分を思い浮かべます。技術を使って使いやすい道具をつくる人や、色と形で何かを伝える人。けれど下半分にも、同じくらい広い場所があります。近所に緑が足りないと集まる人たち。読書会や小さな上映会をひらく人たち。肩書きのない人たちが、そこでデザインをしています。

暮らしの形が速く変わる時代には、誰もが自分の暮らしを、何度も組み立て直すことになります。だからこそ、専門家の役目も変わる、とマンズィーニは言います。

Precisely because everybody designs, it becomes useful and even necessary for someone to help them to do so.

誰もがデザインするからこそ、それを手助けする誰かが役に立ち、欠かせなくなる。

— Ezio Manzini, interview by Daniela Selloni, 2015

ミラノの下宿でも、暮らしをデザインしたのはお年寄りと学生でした。専門の側がデザインしたのは、二人が出会い、信頼しあえるための条件です。答えを代わりに出すのではなく、人がもともと持っている力が働ける場を整える。地図の上と下は、分かれているのではなく、そこで出会っています。

So what一人の専門家から、多くの手へ

デザインは、専門家が考えて人に渡すものだけではありません。地図のほとんどは、その一本の線の外に広がっています。いい仕組みや、いい暮らしの形は、名前のない多くの手の中からも生まれています。

自分の仕事の場所が地図の上で分かると、隣の区画にいる人の仕事も、自分の仕事の続きに見えてきます。

Sources

  1. Ezio Manzini, Design, When Everybody Designs: An Introduction to Design for Social Innovation, translated by Rachel Coad, MIT Press, 2015(ch. 2 “Diffuse and expert design” p. 37、“Design mode map” pp. 40–41, figure 2.1、ch. 5 “Hosting a Student (Milan)” pp. 110–111, example 5.1)
  2. Daniela Selloni, “Interviewed: Ezio Manzini on Design When Everybody Designs,” Shareable, June 29, 2015 shareable.net