No. 21
デコンストラクション
一続きの仕事を、層に分けて見る
事業のデコンストラクションは、地殻変動のように、ゆっくり、しかし、着実に進む。
井上潤吾『守りつつ攻める企業 ― BCG流「攻守のサイクル」マネジメント』(東洋経済新報社、2011)第4章
Episode二百年の百科事典と、光る円盤
1768年、スコットランドの三人の印刷職人が、知識をひとまとめにした事典を出しはじめました。のちの『ブリタニカ百科事典』です。二百年あまりのあいだに、その名は英語の世界でもっとも知られたものの一つになり、事典を一軒ずつ家庭に届ける、腕利きの売り手の組織もできあがりました。
1990年、紙の事典の売り上げは過去最高に達します。そこから先は、崩れていきました。一揃いが千五百ドルから二千二百ドルの事典に対して、パソコンで読む CD-ROM の百科事典は五十ドルから七十ドル。わずか五年で、名門の事典は、安く光る一枚の円盤に、ほとんど倒されかけました。
倒したのは、もっと良い事典ではありませんでした。中身の知識と、それを運ぶ紙と、家まで届ける人。一続きだった仕事の結び目が、ほどけたのです。
Origin結び目が、ほどける
二人のコンサルタント、フィリップ・エバンスとトーマス・ウースターは、この出来事を手がかりに、事業のデコンストラクションという考え方を示しました。一つの会社が、仕入れから開発、生産、販売までを一続きに抱えていられたのは、情報を運ぶのにお金と手間がかかったからです。情報が安く遠くまで届くようになると、その結び目はほどけ、仕事の一つひとつが切り出されて、組み直されていきます。
Meaningほどけたあとの、四つの形
ほどけたあとには、新しい形が現れます。一つの層だけを、業界をまたいで深く押さえる形。要のところだけを持ち、ほかは外の力を束ねる形。売り手と買い手のあいだに、市場そのものをつくる形。そして、買う人の側に立ち、代わりに選ぶ形。
一つの層に絞る形が強いのは、その層の値打ちがほかの層よりずっと高く、全体への影響が大きいときです。計算機を部品から売り方までまるごと手がける会社が強かった時代に、その中の基本ソフトという一つの層だけに絞って、世界を席巻した会社がありました。
So what一歩引いて、層に分けて見る
デコンストラクションは、地殻の変動のように、ゆっくり、しかし着実に進みます。動いている地面の上にいる人は、ゆで蛙のように、気づかないうちに足もとの事業が組み変わっていることがあります。
だから、ときどき一歩引いて、自分の仕事を層に分けて眺めてみる。どの層に本当の値打ちがあり、どの層が自分の強みなのか。それが見えると、これから起きそうな組み直しが読め、次の一手の原石が見つかることがあります。
Sources
- 井上潤吾『守りつつ攻める企業 ― BCG流「攻守のサイクル」マネジメント』東洋経済新報社、2011年、第4章「よい攻め」図表4-3「デコンストラクション」(出所は BCG データベース)と本文。ISBN 9784492521939。ndlsearch.ndl.go.jp
- P. Evans, T. S. Wurster, “Strategy and the New Economics of Information,” Harvard Business Review, 1997。bcg.com
- P. エバンス、T. S. ウースター『ネット資本主義の企業戦略 ― ついに始まったビジネス・デコンストラクション』ボストンコンサルティンググループ訳、ダイヤモンド社、1999年(原著 Blown to Bits)。ブリタニカの年・値段・「五年で」は抜粋 bcg.com による