No. 16
批評的に見る
答えを出す前に、問いを差し出す
Episodeトースターを、一からつくる
デザインを学ぶ一人の学生が、ある日、思い立ちました。店で安く売っているトースターを、材料から全部、自分の手でつくってみよう。鉄は鉱山で鉱石を掘ってきて、自分で溶かす。プラスチックは油からつくる。銅は、銅の溶けた水から取りだす。
九か月かけて、彼はなんとか一台を組み上げました。いびつで、溶けかけたような形のトースターです。スイッチを入れると、数秒で壊れました。店で買えば数百円の品を一台つくるのに、彼は何千キロも旅をし、何十万円も使ったのです。
この作品は、よいトースターをつくるためのものではありませんでした。ふだん何気なく使っている安い道具の向こうに、どれほど長い採掘と工場と輸送の連なりが隠れているか。見る人に、それを考えさせるためのものだったのです。
Origin問いを差し出すデザイン
こうした仕事は、クリティカル・デザインと呼ばれます。二十世紀の終わりに、アンソニー・ダンとフィオナ・レイビーが使いはじめた言葉です。ふつうデザインは、人の困りごとを解き、暮らしを便利にし、ものを売るために使われます。クリティカル・デザインは、それとは逆の向きに力を使います。ものの形を借りて、当たり前になっていることに問いを投げかけるのです。
ダンとレイビーは、この違いを、二つの列の対比として示しました。いつものデザインを A、批評するデザインを B として並べてみると、同じ「デザイン」という言葉が、まるで違う仕事を指していることが分かります。
Meaning皮肉と、物語
デザインの研究者マット・マルパスは、クリティカル・デザインを、ただの奇抜な作品の集まりとしてではなく、長い歴史をもつ一つの営みとして描きました。その源には、近代の合理的な家具や建物に異を唱えた建築家たちや、ものの形で社会を風刺した作り手たちがいます。
マルパスが大事にしたのは、批評の道具としての皮肉と物語です。ありそうで、少しだけずれたものを見せられると、人は笑い、それから立ち止まる。なぜ、これはおかしいと感じるのか。その違和感をたどっていくと、ふだん疑いもしなかった前提に行きあたります。答えを押しつけるのではなく、見る人の中に問いを残す。それが、批評するデザインの働き方です。
So what少しずらして、見えるようにする
仕事でものをつくるとき、私たちはたいてい A の側にいます。困りごとを解き、早く、使いやすく。それは大切な仕事です。けれど A だけを続けていると、解いている問題そのものが正しいのかを、問う機会がなくなっていきます。
ときどき、B の側に立ってみる。当たり前の手順を、わざと極端にしてみる。誰も頼んでいない試作を一つつくって、見せてみる。少しずらしたものを差し出すと、まっすぐな説明では届かなかった問いが、人のあいだで動きはじめます。批評的に見るとは、壊すことではなく、見えなかったものを、見えるようにすることなのだと思います。
Sources
- Matt Malpass, Critical Design in Context: History, Theory, and Practices, Bloomsbury, 2017。邦訳 マット・マルパス『クリティカル・デザインとはなにか? 問いと物語を構築するためのデザイン理論入門』ビー・エヌ・エヌ新社
- Anthony Dunne, Fiona Raby, Speculative Everything: Design, Fiction, and Social Dreaming, MIT Press, 2013(A/B)。邦訳『スペキュラティヴ・デザイン』ビー・エヌ・エヌ新社
- Thomas Thwaites, The Toaster Project, Princeton Architectural Press, 2011