No. 81
多くの手
誰もがデザインし、同じ机を囲む
Episode段ボールの端末
新聞の組版の現場に、コンピュータが入ってこようとしていたころの北欧の話です。長く活字を組んできた職人たちは、新しい機械に自分たちの仕事が奪われるのではないかと身構えていました。
そこで研究者たちは、機械を先につくって渡すのをやめました。職人たちと同じ机を囲み、段ボールや紙で画面と道具の模型をこしらえ、それを手に、紙面を組むふりをしてみる。ここでは手元が見えない、この順番では仕事が止まる。職人の指が、まだ存在しない機械の形を少しずつ決めていきました。
Origin使う人と、ともにデザインする
こうした試みは、のちに参加型デザインと呼ばれ、やがてコ・デザインという言葉に受け継がれていきました。デザインの専門家と、それを使う人とが、つくる過程のはじめから一緒に考え、一緒に形にするやり方です。
デザインの研究者エリザベス・サンダースは、使う人を、調べられる対象ではなく、自分の暮らしについての専門家だと言いました。暮らしのことを、いちばんよく知っているのは、そこで暮らしている人だからです。
Meaning誰もが、デザインしている
デザインの研究者エツィオ・マンズィーニは、デザインを二つに分けて考えました。一つは、学んで身につけた人が、仕事として行う専門家のデザイン。もう一つは、誰もが暮らしの中で、ふだんから行っているデザインです。台所の段取りを変える。近所で子どもを預けあう仕組みをつくる。古い家を、みんなで使える場所に変える。彼はこれを、ディフューズ・デザイン、広く行きわたったデザインと呼びました。
そのうえで、もう一本の軸を引きます。デザインには、目の前の問題を解く働きと、物事に意味を与える働きがある。二本の軸を十字に重ねると、デザインが行われている場所の地図ができあがります。
デザインと聞くと、多くの人は地図の上半分を思い浮かべます。けれど下半分にも、同じくらい広い場所があります。困りごとを自分たちの手で解こうと集まる人たち。暮らしの当たり前を問い直し、新しい意味を差し出す人たち。そこでは、肩書きのない人たちがデザインをしています。
Meaning答えを渡す人から、場をひらく人へ
だから専門家の役割も変わります。正しい答えを一人で考えて差し出す人から、人がもともと持っている力を引き出し、考えを持ち寄れる場をひらき、それを形にする道具を手渡す人へ。つくる人と使う人の線は、思っているよりずっと細いのです。
So what多くの手で、一緒に
デザインを、専門家が考えて人に渡すもの、という一本の線で見ていると、地図のほとんどが見えなくなります。いい仕組みや、いい暮らしの形は、名前のない多くの手の中からも生まれています。
完璧な答えを持っていくより、段ボールと紙を持っていく。同じ机を囲んで、一緒に手を動かす。そうしてできたものは、使う人にとって、渡されたものではなく、自分たちでつくったものになります。それが、遠くまで続いていくデザインなのだと思います。
Sources
- 上平崇仁『コ・デザイン ― デザインすることをみんなの手に』NTT出版、2020
- Ezio Manzini, Design, When Everybody Designs: An Introduction to Design for Social Innovation, MIT Press, 2015
- Elizabeth B.-N. Sanders, Pieter Jan Stappers, “Co-creation and the new landscapes of design,” CoDesign 4(1), 2008
- Pelle Ehn, Work-Oriented Design of Computer Artifacts, 1988(UTOPIA プロジェクト)
- “Design for social innovation is everybody’s responsibility,” Medium(Design Forward)medium.com