No. 100

センス・オブ・ワンダー

知ることより、感じること

It is not half so important to know as to feel.

知ることは、感じることの半分も重要ではない。

Rachel Carson, The Sense of Wonder, 1965

Episode嵐の夜の海辺

ある秋の嵐の夜、海洋生物学者のレイチェル・カーソンは、まだ一歳八か月の甥のロジャーを毛布にくるんで抱き、雨の降る暗い海辺へ下りていきました。大きな波が白く砕けて押し寄せ、二人の声はかき消される。それでも二人は、怖がるどころか、声をあげて笑いあったといいます。

それからもカーソンは、ロジャーを連れて、夜の浜辺で懐中電灯を手にカニを探し、雨上がりの森で苔や地衣類に触れました。名前を教えこむのではなく、ただ一緒に、わあ、と驚く。小さな子にとって、それは何よりの学びになりました。

白黒の古い肖像写真。短い髪の女性が、穏やかな表情で少し横を向いている。
レイチェル・カーソン(1940 年ごろ)。画像: Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

Originセンス・オブ・ワンダー

カーソンは、農薬が鳥や虫や川の生きものを静かに奪っていくさまを描いた『沈黙の春』で、世界の目を自然へ向けさせた人です。その彼女が、病と闘いながら最後に書き残そうとしたのが、ロジャーとの日々をつづった短い文章でした。

彼女はそこで、子どもたちが生まれつき持っている、美しいものや不思議なものに目を見はる感性を「センス・オブ・ワンダー」と呼びました。そして、その感性を一生持ちつづけるには、それを分かちあい、一緒に驚いてくれる大人が、少なくとも一人そばにいることが必要だ、と書いています。

Meaning知るより、感じる

カーソンは、子どもに名前や知識を教えることを急がなくていい、と言いました。まず、心を動かすこと。美しいものに触れて、驚いたり、愛おしく思ったりする気持ちが育てば、知りたいという思いは、あとから自然に湧いてくる。感情の土壌が耕されていれば、知識の種は、そこでよく育つのです。

これは、子どもに限った話ではありません。大人になると、私たちは知っていることを増やすのに忙しく、驚くことを忘れていきます。空の色も、雨の匂いも、知っているものとして通りすぎてしまう。けれど、一度でも立ち止まって感じなおせば、見慣れた世界は、もう一度ふしぎな顔を見せてくれます。

So what一緒に、驚く人でいる

次の世代に何を手渡せるだろう、と考えるとき、私たちはつい、知識や答えを用意しようとします。けれどカーソンが残したのは、もっと手前のことでした。

子どもと一緒に、夜の浜辺へ出てみる。雨上がりの森で、しゃがみこんでみる。教える人ではなく、一緒に驚く人として、そばにいる。そうして分かちあった驚きは、その子が大人になったとき、世界を大切にしようとする力の、いちばん深い根になるのだと思います。

Sources

  1. Rachel Carson, The Sense of Wonder, 1965。邦訳『センス・オブ・ワンダー』上遠恵子訳
  2. Rachel Carson, Silent Spring, 1962。邦訳『沈黙の春』