No. 96

戦略は自分の強さに立脚する

建築家は、敷地から建てる

戦略は自分の強さに立脚する。

横山禎徳『戦略、組織、そしてシステム 「組み立てる」戦略思考の方法論』(東洋経済新報社、2025)表紙の裏

Origin建築家だった人が、最後に残した本

建物の設計から始めて、のちに戦略を考える仕事に転じた人がいました。肩書きは最後まで「社会システムズ・アーキテクト」。その人が講義で語り続けたことをまとめた、遺稿のような本の表紙の裏に、この一文がありました。

Meaning外を分析する前に、立っている地面を見定める

戦略は、市場や競合の分析から自動的に出てくるものではありません。自分の強さを見定め、そこを起点に組み立てるものです。

外を見るな、という話ではありません。外と自分を並べて比べ、その差のうち自分が勝てるところに足を置く。順番の話です。

この順番は、戦略の本の中だけの話ではありません。経験を積んだ起業家も、目的から手段を選ぶより先に、手の中にあるものを見ます。自分が誰で、何を知っていて、誰を知っているか。人類学者のレヴィ=ストロースが「ブリコルール」と呼んだのも、設計図より先に手元の箱の中身を見て、ありあわせの道具と材料から形を考える人でした。どちらも、外の目的からではなく、自分の側から考えを起こしています。

Meaning自分が何者かを、知る

人を知ろうとするとき、どこで生まれ、何を信じ、どんな道を歩いてきたのかを尋ねます。全体の中のどこに立っているかが分かると、その人が何者かが見えてくる。戦略も同じで、強さとは、自分が何者かを、全体の地図の中で知ることから始まります。

植物学者の稲垣栄洋は、雑草を、じつは競争に弱い植物だと言います。森の中で大きな木と光を奪いあえば、負けてしまう。だから雑草は、ほかの植物が生きられない、踏まれる道ばたや畑のすみを選んで生きる。強い者と同じ場所で戦わず、自分が一番になれる場所を見つけること。それが、弱いものの、しなやかな戦略なのです。

So what手元にあるものは、敷地になる

建築は、白紙の上には建ちません。敷地の形や傾き、光の入り方から設計が始まります。建築家だった人が戦略を「自分の強さ」から組み立てたのは、敷地から建てる手の癖が残っていたからかもしれません。

歩いてきた道のり、手元にある知見、すでにある人とのつながり。どれも、これから何かを建てるための敷地です。

Sources

  1. 横山禎徳『戦略、組織、そしてシステム 「組み立てる」戦略思考の方法論』東洋経済新報社、2025年11月(国立国会図書館の記録は2025年12月)。ISBN 9784492534830。紹介文・目次・著者紹介 str.toyokeizai.net/books/9784492534830/、ndlsearch.ndl.go.jp
  2. エピグラフの一文は本の表紙の裏から。読者レビューにも同じ趣旨の一文がある(booklive.jp、二次)
  3. S. D. Sarasvathy, “Causation and Effectuation,” Academy of Management Review 26(2), 2001, pp.243–263。PDF。“Bird-in-hand”(自分が誰で、何を知り、誰を知っているか)の名は後年のもの(effectuation.org)
  4. 稲垣栄洋『「雑草」という戦略 ― 予測不能な時代をどう生き抜くか』日本実業出版社、2020
  5. C. レヴィ=ストロース『野生の思考』大橋保夫訳、みすず書房、1976。仏語原文 “s'arranger avec les « moyens du bord »”