No. 17

非連続思考

跳ぶ前に、着地点を描く

I believe that this nation should commit itself to achieving the goal, before this decade is out, of landing a man on the moon and returning him safely to the earth.

わたしは、この国が目標を定めて身をささげるべきだと信じます。この十年が終わる前に、人を月に降り立たせ、無事に地球へ連れ帰るという目標に。

John F. Kennedy, Special Message to the Congress on Urgent National Needs, 25 May 1961

Episode十五分の飛行のあとで

1961 年の春、ケネディ大統領は議会の合同会議の壇上に立ちました。その三週間足らず前、アメリカは初めて人を宇宙へ送り出したばかりです。といっても、地球を回ることもなく、十五分ほどで海へ降りてくる飛行でした。人を乗せて地球を回る飛行は、ソ連に先を越されていました。

その日ケネディが語ったのは、いまの技術を少しずつ伸ばした先にある目標ではありませんでした。十年のうちに、人を月に降ろして帰らせる。言葉を続けて、この時代のどんな宇宙の計画も、これほど難しく、これほどお金のかかるものはないだろう、とも認めています。どうやって行くのかは、まだ決まっていませんでした。分かっていたのは、着地点だけでした。

八年後の夏、アームストロングが月面に降り立ちます。十五分の飛行を一年ずつ延ばしていっても、たどり着けなかった場所です。

Origin二度、変わる

非連続思考という言葉は、ベルギーの哲学者リュック・ド・ブラバンデールの本の邦題にもなっています。その本は、人も組織も、本当に変わろうとするなら二度変わらなければならない、と説きます。一度目は、目の前の現実を変えること。二度目は、自分たちがよって立つものの見方を変えることです。

現実を少しずつ良くするのは、一度目の変化です。二度目は、何ができるかという見方そのものを入れ替えること。月を着地点に置いた日に変わったのは、ロケットではなく、人びとの頭の中にあった「できること」の範囲でした。

Meaningいまから線を伸ばすのではなく、理想から線を引き戻す

見方を入れ替えると、線を引く向きが変わります。非連続思考は、理想を先に描き、そこからいまへ向かって道を引き直す考え方です。

カイゼンは、いまの位置から明日へ線を伸ばします。非連続思考は向きが逆で、描いた理想からいまへ線を引き戻します。二本の線は、たいてい重なりません。その食い違いの幅が、跳ばなければ届かない距離です。

延長の線と、理想から引き戻す線 左下の「いま」から右へ緩やかに伸びる実線がカイゼンの延長。右上の「理想」からいまへ向かって引き戻した破線が非連続思考の道筋。二本の線の差が、跳ぶ距離になる。 時間 → 延長 理想から引き戻す 理想 いま 跳ぶ距離
延長の線と、理想から引き戻す線。二本の差が跳ぶ距離になる

延長の線の上では、手元にある道具で次の一歩を考えます。だから、道具の届く範囲より先は見えてきません。引き戻す線は、まだ持っていない道具を数えるところから始まります。何が足りないかが分かれば、何を作ればよいかも分かる。着地点を先に描くことは、夢を語ることではなく、足りないものの目録をつくることなのです。

跳ぶからといって、いまを捨てるわけではありません。カイゼンという守りは、跳ぶあいだも、攻めと並んで走り続けます。

So what着地点から、いまを見る

ときどき顔を上げて、何年か先の姿を一つ置き、そこからいまを見ます。延長の線と重なるなら、数字を少しずつ良くしていく毎日を、そのまま続ければいい。重ならないなら、その隙間にこそ、いま始めるべきことが並んでいます。

Sources

  1. John F. Kennedy, “Special Message to the Congress on Urgent National Needs,” 25 May 1961. 全文 jfklibrary.org。該当部分の引用と背景(シェパードの約十五分の弾道飛行が三週間足らず前だったこと): NASA History “60 Years Ago: President Kennedy Proposes Moon Landing Goal in Speech to Congress” nasa.gov
  2. リュック・ド・ブラバンデール『BCG流 非連続思考法 ― アイデアがひらめく脳の運転技術』森澤篤監訳、秋葉洋子訳、ダイヤモンド社、2006年。diamond.co.jp/book/9784478490518.html
  3. 井上潤吾『守りつつ攻める企業 ― BCG流「攻守のサイクル」マネジメント』東洋経済新報社、2011年。str.toyokeizai.net/books/9784492521939/