No. 64
ブリコラージュ
手もとにあるもので、まだない価値をつくる
… la règle de son enjeu est de toujours s’arranger avec les « moyens du bord » …
……その遊びの決まりは、いつでも「手もとにあるもの」でやりくりすることだ……
Claude Lévi-Strauss, La Pensée sauvage, 1962
Episode郵便配達夫の石
十九世紀の終わり、南フランスの小さな村に、フェルディナン・シュヴァルという郵便配達夫がいました。毎日何十キロもの道を、手紙を抱えて歩いて回る。ある日、彼は道ばたで、奇妙な形の石につまずきます。拾いあげて眺めているうちに、ふと、子どもの頃に夢見た宮殿のことを思い出しました。
それから彼は、配達の道すがら、気に入った石を拾い集めるようになります。はじめはポケットに、やがて籠に、そして手押し車に。仕事を終えた夜、ランプの明かりの下で、拾った石とセメントと針金を組みあわせ、少しずつ積み上げていきました。設計図も、建築の知識もありません。あるのは、道ばたの石と、自分の手と、時間だけ。三十三年後、そこには、誰も見たことのない、不思議な宮殿が立っていました。
Origin技術者と、器用人
人類学者のクロード・レヴィ=ストロースは『野生の思考』で、ものをつくる二つのやり方を並べました。技術者のやり方と、ブリコルールと呼ばれる器用人のやり方です。二つを分けているのは、腕前の差ではありません。目的と手段の、順番の違いです。
Meaningブリコラージュの四つの芯
手段が先で、目的はあと。技術者は、まず目的を決め、設計図を引き、それに合わせて材料と道具を一から揃えます。器用人は逆です。いま手もとにある、限られた、ばらばらなものの組み合わせで、事をなす。何ができるかは、手もちを眺めるところから決まっていきます。
集めておく理由は、「何かに使えるかもしれない」。器用人の道具箱にあるのは、ある計画のために揃えたものではありません。古い釘、壊れた家具の脚、形の違う板きれ。いつか役に立つかもしれないと、取っておいたものばかりです。だから仕事は、設計図からではなく、箱の中身に問いかけるところから始まります。おまえは何になれるのか、と。
ものには、前の使い道が残っている。箱の中の材料は、どれもかつて別の何かだったものです。家具の脚は、どこまでいっても家具の脚だった来歴を背負っていて、その来歴が、次に何になれるかをある程度決めます。白紙から自由に描けるわけではない。新しい値打ちは、来歴ごと組み合わせ直すことと、見方を少しずらすことから生まれます。
そしてそれは、頭の中でも起きる。レヴィ=ストロースが本当に言いたかったのは、ここでした。文字をもたない人々の神話は、手もちの物語のかけらを組み合わせ直して、世界の意味を組み立てています。彼はそれを、知のブリコラージュと呼びました。手を使わなくても、考えることそのものが、ブリコラージュでありうるのです。
郵便配達夫の宮殿は、この四つをそのまま形にしています。設計図より先に、道ばたの石があった。石は、いつか何かになるかもしれないと拾われた。どの石にも、川や崖で過ごした来歴があった。そして宮殿は、彼が子どもの頃から頭の中で組み上げてきた夢の、手で触れられる姿でした。
Meaning制約が、創意を生む
使えるものは、いつも限られています。時間も、お金も、人の手も、思いどおりには揃いません。けれど器用人にとって、その限りは不足ではなく、むしろ想像力の出発点です。すべてが揃っていれば、誰がやっても同じものができる。限られた手もちの中でやりくりするからこそ、その人にしかつくれない形が生まれるのです。
絵本作家のドクター・スースは、編集者から「五十種類の単語だけで一冊書けるか」と賭けを持ちかけられ、それに応えて『緑のたまごとハム』を書いたと言われます。使える言葉を縛られたからこそ、くり返しと言葉遊びに満ちた、誰にもまねできない本が生まれました。制約は、創意の敵ではなく、創意を呼びこむ枠なのです。
そしてブリコラージュは、新しくつくっては古いものを捨てる、という流れの反対側にあります。あるものを組みかえ、別の役目を与えて、もう一度生かす。道ばたの石が宮殿の柱になったように、ありふれたものに、まだ見ぬ値打ちを見いだす。それは、ものづくりの技であると同時に、ものとつきあう一つの暮らし方でもあります。
So whatまず、箱の中身に問いかける
何かを始めようとするとき、私たちはつい、目的から考えて、足りないものを数えてしまいます。道具が足りない、資金が足りない、知識が足りない。揃うまで待とうと思ううちに、始める時は遠のいていきます。
ブリコラージュは、その順番を逆にします。まず手もとの箱を開けて、中身に問いかける。それぞれが背負っている来歴に耳を澄ませ、少し見方をずらして、組み合わせ直してみる。目的は、そのあとから見えてくる。手もちから始めることは、妥協ではなく、まだない価値をつくる、もう一つの確かなやり方なのだと思います。
Sources
- Claude Lévi-Strauss, La Pensée sauvage, Plon, 1962。邦訳『野生の思考』大橋保夫訳、みすず書房、1976
- フェルディナン・シュヴァルの「理想宮」(フランス、オートリーヴ、1879〜1912 年ごろ)