No. 12

大きな石から

大事なことを、先に入れる

Episode瓶に、大きな石から

時間の使い方についての講座で、講師が口の広い大きな瓶を机に置き、その隣に、拳ほどの石を盛った皿を並べました。いくつ入ると思いますか。そう尋ねてから、石を一つずつ瓶に入れていき、もう入らなくなったところで聞きます。これで満杯ですか。皆がうなずきました。

講師は机の下から砂利を取りだして流しこみ、瓶をゆすって、石のすきまを埋めていきます。満杯ですか。今度は誰かが、たぶん違います、と答えました。講師は砂を入れ、最後に水を注いでから尋ねました。この話のポイントは何でしょう。すきまはあるものだから、がんばれば、まだ予定は詰めこめる。一人がそう答えると、講師は首を振りました。そうではありません。もし大きな石を先に入れていなかったら、そのうちの一つでも、あとから入ったでしょうか。

スティーヴン・コヴィーは、仲間が講座で見てきたこの場面を、大事なことを先に置くためのたとえとして本に書きました。

同じ瓶に、入れる順番を変える 同じ大きさの瓶が二つ並ぶ。左の瓶は砂と砂利を先に入れたもので、底から大半が砂と砂利で埋まり、大きな石は二つしか入らず、残りの石は瓶の外に置かれている。右の瓶は大きな石を先に入れたもので、石が底から詰まり、すきまに砂利と砂が入って、全部が収まっている。 砂から入れる大きな石から入れる 入らない石
瓶の大きさは同じ。変わるのは、入れる順番だけ

Episode盤の上の麦粒

大事なことを先にするのには、もう一つ、早く始めるという意味があります。それを思わせるのが、十三世紀の歴史家イブン・ハッリカーンが、人名辞典の中に書き残した話です。インドのシッサが、盤の上で駒を動かす遊びを考えだし、王シフラームに献じました。のちのチェスの祖先です。喜んだ王が、望むものを何でも言えと命じると、シッサは答えます。一つめのます目に麦を一粒、二つめに二粒。そうして終わりのます目まで倍にしていった数の麦をいただきたい。

王は、そんな小さなほうびがあるか、と叱りました。けれどシッサは引きません。王が麦を渡すよう命じると、役人たちは計算して、それほどの麦はとても無いと答えます。信じない王に、役人たちは掛け算を重ねて見せ、世界じゅうの麦を集めても足りないことを示しました。王はシッサに言います。

Your ingenuity in imagining such a request is yet more admirable than your talent in inventing the game of chess.

そのような望みを思いつくおまえの知恵は、この遊びを考えだした才にもまして、見事である。

Ibn Khallikan, Biographical Dictionary, tr. Mac Guckin de Slane, vol. III, p. 70

数えてみると、合わせて千八百京粒を超え、いまの世界で一年にとれる小麦の、千年分を超える量になります。しかも、その半分は最後のひとますに入っている。倍々に増えるものは、はじめのうちは目立たず、終わりになって一気にふくらむのです。

Meaning先に入れたものだけが、育つ時間を持つ

瓶の話と麦粒の話は、同じことを別の側から言っています。瓶の話が言うのは、場所の順番です。一日の時間は、小さな用事から入れていくと、すぐに埋まってしまう。小さな用事はいつも急いでいて、片づけば手ごたえもあるからです。大きな石は急かしてこないので、あとに回されつづけ、気づけば入る場所がありません。

麦粒の話が言うのは、始める時の早さです。学ぶことや、人とのつながりのように積み重ねるものは、複利のようにふくらむことがあります。そういうものは、早く始めるほど、育つ時間を長く持てる。けれど、ふくらむとしても終わりのほうなので、始めたばかりのうちは、やめても損をしたように見えません。大事なことが後回しになりやすいのは、そのためです。

So what一日の最初に、一つだけ

瓶はいつも同じ大きさです。変えられるのは、入れる順番だけです。

一日をどう過ごすかが、そのまま一生をどう過ごすかになる、とアニー・ディラードは書きました。その一日のはじめの時間に、いちばん大きな石を一つだけ置きます。その最初のひとかけで、かまいません。砂や砂利は、そのあとでも、すきまに入っていきます。早く置いた石ほど、育つ時間を長く持ちます。

Sources

  1. Stephen R. Covey, A. Roger Merrill, Rebecca R. Merrill, First Things First, Simon & Schuster, 1994(転載が示すのは 1995 年の版の pp. 88–89)。邦訳『7つの習慣 最優先事項』。講座の場面は著者の仲間が見たものとして書かれている。場面は本の版の転載(samyoung.co.nz)による。ネットに広まった別の版(“If you don’t put the big rocks in first…”)は使わない
  2. Ibn Khallikan, Ibn Khallikan’s Biographical Dictionary, tr. Mac Guckin de Slane, vol. III, Paris, 1868, pp. 69–71(台詞は p. 70。Abu Bakr as-Suli の項。1256 ごろ書かれた、麦とチェス盤の話の知られているいちばん古い記録。Clifford A. Pickover, The Math Book, 2009, p. 102) archive.org
  3. Annie Dillard, The Writing Life, Harper & Row, 1989(“How we spend our days is, of course, how we spend our lives.”)
  4. 麦粒の総数 264−1 と世界の小麦の収穫量との比較: Wheat and chessboard problem(Wikipedia)