No. 62

アーティファクト

見える物を一つ変えて、見えないものを動かす

An artifact can be thought of as a meeting point—an “interface” in today’s terms—between an “inner” environment, the substance and organization of the artifact itself, and an “outer” environment, the surroundings in which it operates.

人工物は、出会いの場所だと考えることができる。今日の言葉でいえば「インターフェース」である。人工物そのものの中身と組み立てという「内側」の環境と、それが働く周りという「外側」の環境とが、そこで出会う。

Herbert A. Simon, The Sciences of the Artificial, 1969

Episode物から、サービスへ、戦略へ

ミラノのデザインの研究者エツィオ・マンズィーニは、1987年に『アルテファッティ』という本を書きました。イタリア語で、人工物という意味です。人がつくった物は、どんな素材でできていて、人の暮らしの中でどう働くのか。はじめの問いは、目の前にある物でした。

その問いは、少しずつ広がっていきます。物の先にある、物が手助けする働きのほうへ。そこに目を向けたマンズィーニのもとで、1993年、サービスのデザインを主題にした卒業論文が書かれました。形のない仕事の流れを、物と同じように設計する。当時はまだ、名前もほとんどない分野でした。

そこから、もう一段広がります。物と、サービスと、人に伝える言葉や見た目。会社が世の中に差し出すものを一つの組としてとらえ、その組の形を整えることで、戦略そのものに形を与える。1999年、同じ師のもとで書かれた博士論文は、この営みをストラテジックデザインとして描きました。物から、サービスへ、戦略へ。デザインの扱う範囲は、二十年ほどで大きく広がりました。

Origin見えない物質と、見える物

範囲が戦略にまで広がっても、デザインは手で触れる物を手放したわけではありません。ストラテジックデザインに携わってきたダン・ヒルは、デザインが本当に相手にしているのは、目に見えない「ダークマター」だと書きました。組織の文化、政策、市場の仕組み、法律、お金の回り方、慣習、その土地の文化。一台の車の向こうには、車を生み出したそれらのすべてがあります。車は、ダークマターがつくり出した、見える物のほうです。

ただし、ダークマターに手を伸ばして変えようとしても、その変化の良さを目に見せる物がなければ、あまり効かない、とヒルは言います。ヘルシンキで、炭素をほとんど出さない街区をつくる設計競技が行われたときのことです。木で高い建物を建てたいのに、防火の規則が三階より高い木造を認めていませんでした。建物という一つの物を本気で設計しようとしたことで、規則のほうが問われ、やがて国の防火の規則が書き換えられて、八階建てまでの木造が建てられるようになりました。

見える物と、その下のダークマター 地面の線の上に、小さな四角「アーティファクト」が一つ置かれている。地面の下には広い薄い面があり、組織の文化、法と規則、お金の回り方、慣習の四つが並ぶ。四角から下へ、四つに向かって点線の矢印が伸びている。 アーティファクト 見える物 見えないもの(ダークマター) 組織の文化 法と規則 お金の回り方 慣習
見える物を一つ変えると、その下にあるものが問われる。ダン・ヒルの「ダークマター」の考えをもとに描いたもの

Meaning内と外が、出会うところ

人工物を、内と外が出会う場所だと考えた人がいます。経済学者で認知科学者のハーバート・サイモンです。物の中身や組み立てが内側、それが置かれる周りが外側。内と外が合っていれば、物は役目を果たす。だから一つの物を変えることは、その物だけの話では終わりません。周りに置かれた人の動き、決まりごと、お金の流れと、どこかで必ず触れあいます。

マンズィーニの研究の道のりは、物から始まり、物の外側へと広がっていきました。それでも、出発点が物であったことには意味があります。組織の文化や規則は、それだけを議論していても、なかなか動きません。目の前に一つの物が置かれると、人はそれを指さして、「これを実現するには、何が足りないのか」と話しはじめます。物は、見えないものを話題にするための入口になります。

So what変えるものを、一つ選ぶ

変えたいのが、目に見えない仕組みのほうだとしても、まず見える物を一つ選びます。申し込みの用紙、店の入口、毎週の会議の一枚の紙。小さくてもかまいません。それを本気で良くしようとすると、なぜこうなっているのか、何がそれを止めているのかが、自然と表に出てきます。

迷ったときは、「どれを一つ変えれば、まわりが動き出すか」と問います。答えは、たいてい手で触れられる形をしています。

Sources

  1. Herbert A. Simon, The Sciences of the Artificial, 3rd ed., MIT Press, 1996, ch.1, p.6(初版 1969)
  2. Elena Pacenti, Daniela Sangiorgi, “Service Design Research Pioneers: An Overview of Service Design Research Developed in Italy since the ’90s,” Design Research Journal 1/2010(マンズィーニ『Artefatti』1987、1993 年の卒業論文「Il Design dei Servizi」、1995–1998 年の博士研究)
  3. Francesco Zurlo, Un modello di lettura per il Design Strategico, 博士論文、1999(指導 Ezio Manzini)。定義は Zurlo, “Design strategico,” Enciclopedia Treccani XXI Secolo, 2010 による treccani.it
  4. Dan Hill, Dark Matter and Trojan Horses: A Strategic Design Vocabulary, Strelka Press, 2012(ダークマターの定義 p.83、車の例 p.82、人工物の役割 p.85、Low2No p.80。ページは印刷版)
  5. “Low2No sustainable building design competition led to change in national fire code,” Sitra, 2016(2011 年の防火の規則の改定、八階建てまでの木造)arkisto.sitra.fi