No. 91

人間の土地

同じ方向を、ともに見る

Aimer, ce n’est point nous regarder l’un l’autre, mais regarder ensemble dans la même direction.

愛するとは、互いに見つめあうことではない。ともに同じ方向を見つめることだ。

Antoine de Saint-Exupéry, Terre des hommes, 1939

Episode雪のアンデスを歩いた男

郵便飛行がまだ命がけの仕事だったころ、飛行士のギヨメは、冬のアンデス山脈で嵐に巻きこまれ、雪の中に不時着しました。助けが来る見込みはありません。彼は、凍える体で、何日も山を歩きつづけます。倒れて眠ってしまえば、それで終わる。何度も横になりたくなるたびに、待っている妻のこと、仲間のことを思い浮かべ、また一歩を踏み出しました。

やがて村にたどり着いたギヨメは、迎えに来た友に、こう言ったといいます。誓って言うが、ぼくがやったことは、どんな動物にもできなかっただろう。その友が、同じ空を飛んでいたアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリでした。

Origin人間であるとは、責任をもつこと

サン=テグジュペリは、この友のことを『人間の土地』に書き残しました。ギヨメを歩かせたのは、生きのびたいという本能だけではありませんでした。自分が帰らなければ、運ぶはずだった郵便が届かない。仲間が自分を待っている。その責任が、凍えた足を前へ動かしたのです。

人間であるとは、まさに責任をもつことだ、とサン=テグジュペリは書きました。自分のものではない不幸を前にして恥じること。仲間が勝ちとったものを誇りに思うこと。自分の石を一つ置くことで、世界を築くことに加わっていると感じること。

Meaning同じ方向を、ともに見る

同じ本の中で、彼はもう一つ、よく知られた言葉を残しています。愛するとは、互いに見つめあうことではなく、ともに同じ方向を見つめることだ、と。砂漠や雪山の上で、飛行士たちを結びつけていたのは、互いへの好意だけではありませんでした。同じ郵便を、同じ空の向こうへ届けるという、一つの目的でした。

人と人とのつながりは、向かいあうことだけでは深まりません。同じものを見て、同じ方向へ歩き、同じ重さを分けあうとき、絆はほんとうの強さをもちます。そして、その目的に対して責任を負うことが、一人ひとりを、ただ生きのびる存在から、人間へと引き上げるのです。

So what自分の石を、一つ置く

大きな仕事の中で、自分のしていることが小さく思えるとき、私たちは、それが何かの役に立っているのかどうか、分からなくなります。

けれど、誰かと同じ方向を見て、自分の石を一つ置いてみる。その一つが、仲間の仕事とつながり、まだ見ぬ誰かのもとへ届いていく。責任をもって石を置くこと。それが、ともに世界を築くということであり、人間であるということなのだと思います。

Sources

  1. Antoine de Saint-Exupéry, Terre des hommes, 1939。邦訳『人間の土地』