No. 40

オルタナティヴ

反対ではなく、もう一つの道を置く

Another world is possible.

もう一つの世界は、ありうる。

二十一世紀のはじめ、ポルト・アレグレに集まった人々の合言葉

Episodeほかに道はない、という言葉

一九八〇年代のイギリスで、首相のマーガレット・サッチャーは、ある言い回しをくり返し口にしました。There is no alternative。ほかに道はない。市場にまかせ、古いものを手放す。厳しくても、これしかないのだ、と。あまりにくり返すので、頭文字をとって TINA というあだ名まで付きました。

それから二十年ほどのち、ブラジルの南の町ポルト・アレグレに、世界じゅうから人が集まりました。農民も、学生も、労働者も、小さな町の役人もいました。互いに意見はばらばらで、一つの答えを持っていたわけではありません。それでも、彼らは一つの合言葉を掲げました。もう一つの世界は、ありうる。答えを示すより先に、「ほかに道はない」という言葉そのものを、そっと押し返したのです。

Origin二つのうちの、もう一方

オルタナティヴは、ラテン語の alter から来た言葉です。alter は、ただの「ほか」ではなく、二つあるうちの「もう一方」を指します。そこから、かわるがわる、交互に、という意味の言葉が生まれ、やがて、選べるもう一つの道を指すようになりました。

この言葉には、はじめから「二つ」が含まれています。一つしかないところに、オルタナティヴはありません。もう一方を置いたとき、はじめて、いまの道も「選ばれた一つ」として見えてきます。

Meaning反対ではなく、もう一つ

オルタナティヴは、反対とは違います。反対は、いまあるものを否定します。オルタナティヴは、いまあるものの隣に、もう一つの道を置きます。大きな流れを止めるのではなく、その脇に小さな流れをつくる。オルタナティヴ・スクールも、オルタナティヴ・ロックも、主流を倒したのではなく、主流しかないと思われていた場所に、別の聴き方、別の学び方がありうることを見せました。

「これしかない」という言葉は、強く、正しく聞こえます。けれどそれは、ほかの道を考えなくてよい、という合図でもあります。もう一つを思い描けるかぎり、人は選んでいる側にいられます。思い描けなくなったとき、選ぶ側から、従う側へと移っていきます。

So what小さく、もう一つを置く

仕事でも暮らしでも、「ほかに道はない」と感じる場面があります。決まった手順、決まった道具、決まった速さ。そこで反対の声を上げるのは、骨が折れます。けれど、隣にもう一つの道を小さく置いてみることなら、明日からでもできます。

代わりの案を、ひとつだけ添えてみる。いつもと違う手順で、一度だけやってみる。それが選ばれなくてもかまいません。もう一方があると知るだけで、いまの道は「仕方のないもの」から「選んだもの」に変わります。オルタナティヴとは、世界を変える大きな答えより先に、選べるという感覚を手もとに取り戻すための言葉なのだと思います。

Sources

  1. Margaret Thatcher, 1980 年代の演説と会見での発言。 Margaret Thatcher Foundation
  2. World Social Forum, Porto Alegre, 2001。合言葉 “Another world is possible”
  3. alternative の語源(ラテン語 alter「二つのうちの他方」、alternare「交互にする」)。 Online Etymology Dictionary