No. 48

パタン・ランゲージ

心地よさに、名前をつける

Episode窓辺の場所

日の当たる窓辺に、腰かけられる小さな場所がある部屋を思い浮かべてみてください。本を読むとき、お茶を飲むとき、人は自然とそこへ引き寄せられます。反対に、大きな窓があるのに、その前に座る場所のない部屋では、どこか落ち着かない。光のほうへ行きたいのに、そこにとどまる場所がないからです。

建築家のクリストファー・アレグザンダーは、こうした小さな心地よさを一つずつ取り出して、言葉にしていきました。どの部屋にも、窓辺に腰を落ち着ける場所を。どの部屋にも、二つの方向から光を。人がなぜかほっとする場所には、くり返し現れる形がある。彼はそれを「パタン」と呼びました。

午後の光が窓の形のまま壁に差しこむ、静かな居間。光の下にソファと椅子が置かれている
光のほうに、腰を落ち着ける場所がある。ヴィルヘルム・ハマスホイ《居間に射す陽光 III》(1903)。画像: Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

Origin心地よさの、言葉

アレグザンダーと仲間たちは、町の広がり方から、通りや広場、家の間取り、窓辺の腰掛けにいたるまで、二百五十あまりのパタンを一冊にまとめました。一つひとつのパタンには、そこでくり返し起きる問題と、その問題を解く形の芯が、短く書かれています。

パタンは、言葉の単語のように組み合わせて使います。単語を並べて文をつくるように、いくつかのパタンをつないで、一つの家や一つの通りを形づくる。彼がこれを「パタン・ランゲージ」と名づけたのは、建築家だけでなく、そこに住む人たちが自分の手で、自分の場所をつくれるようにしたかったからです。

パタンをつないで、一つの文をつくる 上の段に町のパタン(広場・通り・歩ける町)、中の段に家のパタン(中庭・玄関・台所)、下の段に部屋のパタン(窓辺の場所・二方向の光・腰掛け)が並び、細い線で上下につながっている。そのうち「通り」から「玄関」「窓辺の場所」、そして「腰掛け」へとたどる一本の道だけが青く強調され、一つの文のように読める。 広場 通り 歩ける町 中庭 玄関 台所 窓辺の場所 二方向の光 腰掛け 町 家 部屋
大きなパタンから小さなパタンへ。たどった一本の道が、一つの家の「文」になる。クリストファー・アレグザンダーほか『パタン・ランゲージ』の考え方をもとに描いたもの

Meaning名づけえぬ質

アレグザンダーは、生き生きとした町や家には、言葉にしきれない共通の質があると考え、それを「名づけえぬ質」と呼びました。美しい、心地よい、生きている。どの言葉も少しずつ当たっていて、どれも足りない。パタンは、その名づけえぬものに、少しずつ近づくための手すりでした。

この考え方は、建築の外にも広がっていきました。ものをつくる人たちが、うまくいった形に名前をつけ、互いに手渡し、組み合わせて使う。誰か一人の才能に頼らず、多くの人の経験から生まれた知恵を、共有できる言葉にしておく。パタン・ランゲージは、つくることをみんなの手に渡すための、言葉の道具なのです。

So what心地よさに、名前をつける

なぜかほっとする場所、なぜか使いやすい道具、なぜかうまくいく集まり。私たちはそれを、たまたまだと思って通りすぎてしまいます。

けれど、その「なぜか」に、立ち止まって名前をつけてみる。どんな問題があって、どんな形がそれを解いていたのか。名前をつけた心地よさは、次の場所で、別の誰かの手で、もう一度つくり直すことができる。そうして手渡された小さな言葉が重なって、町も暮らしも、少しずつ生き生きとしていくのだと思います。

Sources

  1. Christopher Alexander ほか, A Pattern Language: Towns, Buildings, Construction, Oxford University Press, 1977。邦訳『パタン・ランゲージ ― 環境設計の手引』鹿島出版会
  2. Christopher Alexander, The Timeless Way of Building, 1979。邦訳『時を超えた建設の道』鹿島出版会
  3. Vilhelm Hammershøi, Sunshine in the Drawing Room III, 1903。 Commons(パブリックドメイン)